ぺんぎんぺーぱーちぇーす -PennLawLL.M.留学記-

University of Pennsylvania Law School LL.M.(ペンシルベニア州フィラデルフィア)を修了し、日本に帰ってきました。留学時代のことやアメリカのことなどを細々と書いていきます。

『私がマッキンゼーを辞めた理由』(石井てる美)を読んで②

前回の続き

全体的にいい本で共感したのですが、しかし、一方で、「この決断はこの人だからできたのではないか」と思うところもあり、必ずしも普遍的に援用できるものではないと思います。その点は注意が必要かと。以下で列挙します。


①ホントにお笑いがやりたかったのか
単に本で触れてないだけかと思いますが、本人がお笑いをやりたいと思った理由が明確でありません。例えば「大学時代からお笑いサークルでプロを目指していた」、などの背景の記載があれば納得がいくのですが。「人よりちょっと面白いしやってみようかな」ということもあったのかもしれません。
また、これは邪推かもしませんが、「エリートな自分がお笑いをやる」こと自体に面白さを見出しているのかも。

②元々チャレンジ精神がある(理転、インターン
とりわけ日本人はそうですが、変化やチャレンジに対して消極的な人は多い。
氏は自分はレールから外れないように必死に生きてきた人間である、と言っていますが、大学時代に理転するという結構思い切った事をやっています。また、大学、大学院を通して海外インターンに数回挑戦する等、一般的な人よりは元々チャレンジ精神がある人(人とは違うことをやりたい人)のようです。

③お笑い一本でやるのか?打算的では?(講師など 高学歴芸人)
氏の活動を見ていると、経歴を活かした講演会等を多くやっているようです。また、お笑い芸人としても、最近よくいる高学歴芸人的な立ち位置が多いようです(ネタ自体も英語等を活かしている)。
もちろん芸人が腐るようにいる中でプレゼンスを出すために自分の強みを活かすことは自然で何も悪いことはありませんが、純粋に一芸人として人を笑わせる、というような感じがしません。
すなわち、誇るべき経歴が無い人とはそもそも土台が違うのです。

④プライド保持のためではないか?
マッキンゼーのような一流企業にいては東大卒なんて特に目立つ学歴ではないだろうし、むしろ海外のトップ大の修士なんかが大勢いてコンプレックスに思ったかもしれない。英語力にしても、英語なんて話せて当たり前の世界だろう。
しかし、芸人のような非学歴社会に入れば、(それが何の役にも立たないということはあるにせよ)相対的にそうした経歴・能力が浮くことになり、「すごいね」と言ってもらえる機会が増えることになる。邪推かもしれないが、そういう自分の能力の再認識化・自己肯定、みたいのを求めていたのかもしれない。

⑤他の選択肢がある(お笑いダメでも転職可能。普通の人にはない)
③と関連します。本の中でも触れていますが、この転職という決断に踏み切った理由の一つとして、「ダメでもまたやり直せばいい」ということを挙げています。
しかしそれは素晴らしい学歴と職歴と英語力がある彼女だからこそできることです。普通の人の場合、「会社を辞めて芸人になっても鳴かず飛ばずだ。仕方ないからこの道は諦めて新たに職を探そう」ということになっても、中々うまくはいかないはずです。

⑥(認めているが、)耐えられなくて逃げた
彼女はマッキンゼーでも順風満帆だったけど辞めた、のではありません。仕事に疲れ、成果もあまり出せず、人間関係がうまくいかず、鬱気味になって耐えられなくなったから辞めたのです。
恐らく、芸人にならないにしても転職していたはずです。まぁ、本当の意味で現在の仕事に満足していればそもそも転職する必要性自体無いかもしれませんが、「今の仕事は好きだし辞めたくないけど…」という場合は、他にやりたいことがあったとしても、やはり決断は難しいのではないでしょうか。

⑦まだ結果を出していない(お笑いで大失敗するかも)
彼女はお笑い芸人としてはまだまだひよっこです。この本のおかげで名前は売れたと思いますが、芸人としてはまだまだでしょう(実際にネタを拝見したが、お世辞にもあまり面白いとは言えなかった)。
つまり、彼女は数年後には全く売れなくて業界から消えている可能性もあるのです。もちろん「それでも好きなことをやったから満足」と納得できるかもしれませんが、転職を考えている人はその道での失敗は望んでないでしょう。好きな道での成功を望んでいるはず。

そうすると、身も蓋もない話ですが、この本を出すのは少し早すぎたのかもしれませんね。
大成した芸人の苦労話ならともかく、芸人としては駆け出しの身でこのような本を出すと、「過去のキャリアにしがみついた売名行為」とも取られかねません。出版社の意向もあったのでしょうが




だいぶ批判的な事を書いてしまいましたが(共感した文章より批判する文章のほうが書きやすいから筆が乗ってしまう)、全体的にはすごくいい本だと思います。あと、推測(邪推)ばかりなので本当のところはわかりません。

なんか、「他人の言うことにとやかく文句言うな」という趣旨の本を読んでこうして文句つけてるのはなんかなぁと思いつつ書いたのだけど笑、まぁ客観的に批評を行うということはまた別で必要なことだなと思ったので。ある考え方のいいところと悪いところを書き出して比較考量とかやっちゃうのは法律勉強してる癖かもしれません。


とはいえ、結局のところ、決断は個人的なものであり、価値観も様々であり、何が答えかというのはやってみないとわかりません。というか、やってみても最後までわからないことも多い。ある人にとっての正解が他の人にとっては不正解のこともある。

しかし、そもそも「リスクはあるけど○○をやりたい」と思っているとき、リスクがあるにもかかわらずそれをやりたいということは、それこそが本当の自分の欲求であるはず。とすると、既に自分の中では答えは出ているのでしょう。結局は一歩が踏み出せないだけなのです。
そういう意味では、その欲求を後押しして実現させてくれるようなこの本は、価値があると思います。

やりたいことがあるけどどうも挑戦に踏み切れない、という人にはオススメの本です。