H30司法試験再現答案ー憲法

第1 規制対象
1 条例72号の規制図書類の範囲は漠然不明確又は過度に広汎であり、憲法31条に反し違憲・違法ではないか。
(1) 規制範囲が漠然不明確であれば国民の予測可能性が担保されないし、あまりに広汎で違憲的に適用される法令はそれ自体が脅威となる。そこで、一般人が基準を読み取れ、かつ合憲的に限定解釈することができない限り、違憲無効となる。
(2)ア 本件で、「殊更に性的感情を刺激する画像又は図画に限る」という限定を付しており、規制対象とそうでないものの基準を読み取ることは可能であるから、漠然不明確とはいえない。
イ そして、たしかに条例7条は刑法上「わいせつ」とならない文書も対象としているほか、漫画・アニメ等も含んでいる。しかし、上記のような限定を付した上で、「衣服の全部又は一部を着けない者」という客観的基準を設け、その上で「卑わいな姿態」としているのだから、羞恥心や不快感を覚えるようなものに限定しているといえる。したがって、このように合憲的に解釈する限り、過度に広汎であるとはいえない。
(3) よって、31条には違反しない。
第2 図書類を購入する側の憲法上の自由
1 青少年
(1) 条例83項は青少年のわいせつな文書等を購入する自由(「本件自由1」という。)を侵害し、憲法211項に反し違憲ではないか。
(2) 思想・情報を発表し伝達するには、適切な情報や思想を知る機会が与えられなければならない。そこで、表現の自由の一環として、情報摂取の自由が同項により保障される。
 もっとも、性表現は価値が劣る言論であり、それを知る権利も憲法上保障されないとの反論が想定される。しかし、国家が表現の価値を判断し、保障の程度に差異を設けることは、表現の自由の基礎にある思想の自由市場原理に反するから認められない。
したがって、本件自由1211項により保障される。
(3) 条例83項は青少年に対する規制図書類の販売・貸与を禁止しており、本件自由1を制約している。なお、これに対して、A市の外に出れば購入できるから制約はないとの反論がありうるが、本件自由1はあくまでA市において購入する自由を問題にしているのだから、制約は肯定できる。
(4)ア 表現の自由は精神的自由の根幹である重要な権利であり、厚く保障される。そして、条例は青少年に対する規制図書類の販売等を一切禁止するものであり、さらに表現内容に着目した規制であるから、制約の態様は強い。
 もっとも、青少年は未熟で傷つきやすく、それを保護する必要性があるから、パターナリスティックな制約も一定程度は許されるべきである(有害図書販売事件)。これをもってあらゆる制約が許されるわけではないが、審査基準は緩められるべきである。
 そこで、規制目的が重要で、手段が目的と実質的関連性を有せば合憲である。
イ 規制目的について、青少年の未熟さやトラウマの残りやすさ等に鑑みれば、青少年の健全な育成は重要といえる。
 手段について、たしかに店舗での入手を不可能にすることで一定の目的は達成しうるが、隣接する市や通信販売等により容易に入手できるのだから、そもそも目的達成に効果的ということができない。
(5) よって、条例8条3項は違憲である。
2 18歳以上
(1) 条例81項及び2項は、18歳以上の者のわいせつな文書等を購入する自由(「本件自由2」という。)を侵害し、憲法211項に反し違憲である。
(2) 前述のように情報摂取の自由は同項により保障され、わいせつな文書であっても変わりないから、本件自由2は同項により保障される。
(3) 条例81項及び2項により、それぞれ日用品等を販売する店舗と規制区域において規制図書類が購入できなくなっており、本件自由2が制約されている。なお、これに対して、4項にいう事業者の店舗等から購入できるから制約が観念し得ないとの反論がありうるが、他店舗で購入ができるからといって制約自体がないということにはならない。
(4)ア 情報摂取の自由は前述のように重要である。
 制約につき、日用品等を販売する店舗での規制図書類の販売数は多くなく、需要もそこまで大きくないこと、そして、規制区域は学校の周辺200メートルで市全体の20%、商業地域の30%と狭い範囲に限られていることから、制約の態様はさほど強くない。
 したがって、規制目的が重要で、手段が目的と実質的関連性を有せば合憲となる。
イ 規制目的につき、1項は購入の意思のない者の目に触れることで羞恥心を与えることを防止することにあり、重要である。2項は青少年の健全な育成を目的としており、その傷つきやすさ、回復の困難さに鑑みれば重要である。
 手段につき、規制は規制図書類の販売を全面的に禁止するものではなく、書店等では従来通り購入することができるのだから、過剰な手段ではなく、目的と実質的関連性を有する。
(5) よって、条例81項及び2項は合憲である。
第2 図書類を販売等する店舗の憲法上の自由
1 スーパーマーケット・コンビニエンスストア
(1) 条例81項はこれらの店舗のわいせつ文書等を販売する自由(「本件自由3」という。)を侵害し、憲法221項に反し違憲ではないか。
(2) 同項は「職業選択の自由」を保障しているが、選択した職業を遂行する自由も保障しなければ同保障は無意味となるから、同項は職業遂行の自由としての営業の自由も保障している。したがって、本件自由3も同項により保障される。
(3) 販売が禁止されており制約がある。
(4) 営業の規制は様々なものがあるから、規制の目的や対象、規制の強度等を考慮して正当化基準を決めるべきである。本件の規制目的は購入意思のない者の目に触れることで羞恥心を与えることを防止することであり、個人の人格権に配慮したもので重要である。対象となる規制図書類を販売しているのは全体の25%にすぎず、さらに売上が全体の売上に占める割合は微々たるものにすぎない。そうすると規制の態様も強くない。
 そこで、規制目的が公共の福祉に合致しないことが明らかであるか、手段が必要性・合理性を欠いていることが明らかでなければ合憲である。そして、本件でこうした事情は見られない。
(5) よって、条例8条1項は本件自由3を侵害するものではなく、合憲である。
2 規制区域の店舗
(1) 条例8条2項は同店舗のわいせつ文書等を販売する自由(「本件自由4という。」)を侵害し、憲法22条1項に反し違憲ではないか。
(2) 前述同様同項により保障され、また、販売が禁止されており制約がある。
(3) 本件の規制目的は児童を含む青少年保護で、重要である。規制区域内の規制図書類販売店舗は150店舗あるところ、売上が全体の売上の20%を超えるのは10店舗にすぎない。そうすると、規制の態様も強くない。
 したがって前述と同一の基準で判断すると、そうした事情はない。
(4) よって合憲である。
3 書店・レンタルビデオ店
(1) 条例8条4項はわいせつ文書等を販売する(「本件自由5」)を侵害し憲法221項に反し違憲ではないか。
(2) 前述同様保障される。制約につき、販売自体はできるが営業活動としての陳列場所を強制されるのだからある。
(3) 本件の規制目的は見たくない者を守ることで重要である。規制についても、内装工事などは必要なものの陳列場所を変えれば済むのだから態様は弱い。
 そこで前述同様の基準で判断すると、そうした事情はない。
(4) よって合憲である。

以上

(2969字) 

 

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もはや今更感がすごすぎて再現答案とも呼べないと思うのですが、憲法だけ書かないのも収まりが悪いのでアップします。

憲法は形式を守ることを最優先課題としていたところ、問題文を開いた瞬間文字通り顔面蒼白になりました。三者間でないなら丁寧に論じたほうがいいと考えて購入側をきっちり書いた結果、時間がなくなり販売側がやっつけになりました(たしか1頁半も書いてないような……)。

しかも、わいせつ文書(要するにエロ本)規制については、アメリカのコンビニなどにはエロ本は売ってないので日本特有だよなぁ、オリンピックどうするんだろうなぁ、欧米は子供の権利に敏感だからなぁ、などと個人的に考えていたので、かえって問題文を素直に読むということが難しく感じました。

あとどこまでを常識として書いていいかもわからず……。そもそも、アマゾンで買えるから規制しても対して困らなくないですか?とか。今どきの子供は自分のスマホを持っててエロ動画を見るからエロ本なんか買わないし、規制したところで意味なくない?とか。というか、多少のエロ本はむしろ青少年の健全な育成に必要なんじゃないの?とか。もちろんそんなこと書けないのですが。

羞恥心を覚えるというのも、まぁ女性からするとそうだと思いますし、僕も普通にコンビニに飲み物買いに行くときに目に入るのは不快ですが、それがどれくらい深刻とすれば常識的なのかもイマイチわからず。身近すぎる話題も困りものです。

 

青少年、大人、3つの販売業態と全て分けて3段階審査を書いたのですが、重複する部分が多いので失敗したなと思ってます。保障と保障の程度、制約と制約の程度もまとめて書くべきでした。中身もスカスカで当てはめでの十分な議論ができず……。

ということで憲法は一番悔いが残るのですが、まぁこればかりは仕方ないです。他の科目でカバーしていることを祈ります。

H30司法試験再現答案―民事訴訟法

設問1
1 課題(1)
(1) AのBに対する訴えは適法か。既にBのAに対する訴えが提起されているため、民事訴訟法(以下略す。)142条に反さないか。
ア 同条が重複起訴を禁止する趣旨は、被告の応訴の煩、訴訟不経済、既判力の抵触による矛盾判断の防止にある。したがって、「裁判所に係属する事件について」か否かすなわち事件の同一性は、①当事者の同一性と②審判対象の同一性両者が満たされることをいうと解する。
イ 本件で、Bの訴えとAの訴えはいずれもAとBを当事者とする。原告と被告が逆になっていても当事者は同一であるといえるから、①は肯定できる。
 また、Bの訴えの訴訟物はBのAに対する不法行為に基づく損害賠償債務の150万円を超える部分の不存在であるところ、Aの訴えの訴訟物はB及びCの共同不法行為に基づく損害賠償債権の存在である。両者の訴訟物は同一ではないが、いずれも同一の不法行為に基づく債権債務の存否について争うものであり、一部重なり合うし、訴訟資料も同一のものである。そうすると、別訴で提起すると訴訟不経済や矛盾判断のおそれがあり、審判対象は同一といえるから、②も肯定できる。
ウ したがって、Aの訴えは142条に反し許されないといえそうである。
(2) もっとも、反訴(146条)であれば同一手続内で処理されるから142条に反さない。
ア 「本訴の目的である請求…と関連する請求」(同条柱書)とは、訴訟物たる権利の内容又は発生原因につき共通点を有する、すなわち訴訟資料が共通する請求をいう。前述のようにBの請求とAの請求は同一の交通事故に基づく損害賠償についてのもので訴訟資料が共通する。
 「口頭弁論の終結」(同)の前であり、Bの訴えは乙地裁に係属しているから、「本訴の継続する裁判所」(同)である。
 Aの訴えは乙地裁に管轄を有し、「他の裁判所の専属管轄に属する」(同条1号)とはいえないし、Bの訴えは提起されたばかりで、「著しく訴訟手続を遅滞させること」(同条2号)とならない。
 したがって、反訴の要件を満たす。
イ そして、同一の交通事故に基づく損害賠償請求だから、「訴訟の目的である権利…が…同一の事実上及び法律上の原因に基づく」(38条前段)といえ、CとBを共同被告として共同訴訟を提起することができる。
(3)  以上から、Aの訴えは適法である。
2 課題(2)
(1) 被告の住所地が管轄を有するところ(4条2項、1項)、共同訴訟においては一人の管轄があればよい(7条本文、ただし書)。
(2) 本件で、共同被告の一人であるCは甲市内に住所を有している。そして、甲地裁は土地管轄及び事物管轄を有している。
(3) よって、AがBとCを共同被告とする訴えを甲地裁に提起することはできる。

設問2
1 文書提出義務が認められるためには、221条に基づく申立てをしなければならない。
 「文書の表示」及び「文書の趣旨」はD病院でのAの診療記録全部、「文書の所持者」はD、「証明すべき事実」は本件事故と治療及び後遺症との因果関係、「文書の提出義務の原因」は400万円という損害額は多額であり上記因果関係の証明があること、とする。
2(1) ではDは文書の提出を拒むことができるか。本件は220条2号及び3号に当たるから、4号のいずれかに該当することを要する。そこで①「職務上知り得た事実」で②「黙秘の義務が免除されていないものが記載されている文書」(197条1項2号、220条4号ハ)に該当するか検討する。
(2) 法が上記文書の提出を拒むことができるとする趣旨は、医師等の専門職にある者は職務上患者の病歴などのセンシティブな秘匿情報を得ることが多く、拒めないとすると患者が医師を信頼できず虚偽の申告をする等して、業務に支障が生ずるからである。
 そうすると、その文書が含む秘匿情報の主体がその秘匿性を放棄している場合は、もはや黙秘の義務が免除されているということができる。
(3) 本件で、D病院におけるAの診療記録はDが診療という「職務上知り得た事実」である(①該当)。しかし、Aの診療記録にはAの症状や後遺症などのAにとっての秘匿情報が記載されていると考えられるところ、Aの訴えにおいてA自ら診断書等を提示しているのだから、Aは文書の秘匿性を放棄しているといえ、「黙秘の義務が免除されてい」るといえる(②非該当)。
(4) したがって、220条4号ハの拒絶事由はない。
3 以上から、DにはAの診療記録全部の文書提出義務がある。

設問3
1 理由(ア)について
(1) 補助参加人は独立して一切の行為をすることができ、上訴をすることもできる(独立性。45条1項本文)。そして、「補助参加の申出は、補助参加人としてすることができる訴訟行為とともにすることができる」(43条2項)のだから、第一審で補助参加をしていなくても、上訴提起とともに補助参加することができる。ただし、あくまで被参加人の補助をする立場であるから、被参加人の訴訟行為と抵触するときはその効力を有しない(従属性。同条2項)。
(2) 本件で、Bは上訴をしてCの過失の存否について争おうとしているところ、これ自体はAも一審で主張しているし、認められてもAの不利益とはならないのだから、被参加人Aの行為と抵触するとはいえない。
(3) よって、理由(ア)は失当である。
2 理由(イ)について
(1) 補助参加するには、補助参加の利益があること、すなわち「訴訟の結果について利害関係を有する」(42条)ことが必要である。
(2) 「訴訟の結果」につき,直接第三者に不利益を与えるのは理由中の判断であることが多いから、参加の利益を実質的にみて、理由中の判断も含まれ、訴訟物の前提をなす場合でも足りると解する。
 また、「利害関係」とは、訴訟の錯雑化防止の観点から法律上の利害関係を有する場合、すなわち当該訴訟の判決が参加人の私法上又は公法上の法的地位又は法的利益に事実上ないし法律上不利益な影響を及ぼす関係をいう。
(3) 本件で、訴訟物はAのB及びCに対する不法行為の基づく損害賠償請求権であるところ、判決はBに対する請求の限度でこれを認める一方、Cは過失がないとしてCに対する請求を棄却している。すなわち、理由中においてCに過失がなく、不法行為責任がないことを判断している。
 そして、もしCに過失がありB及びCの共同不法行為と認定されれば、損害賠償債務は不真正連帯債務になるから、BはCにCの負担部分を求償することができた。
 そうすると、Cに過失がないという判断によって、BはCに対する求償権を失っており、事実上不利益な影響がある。
 したがって、「訴訟の結果」につき法律上の「利害関係」があるから、Bに補助参加の利益がある。
(4) よって、理由(イ)も失当である。
3 結論
 以上のように、Bは補助参加することができる。Aには控訴の利益も認められる。
 以上から、控訴は適法である。
以上

(2446字)

 

 

 

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民法と同じく再現率は低いです(おそらく盛ってます)。

 

設問1課題(1)

どう見ても重複起訴に当たるのにどうやって適法にすればいいんだ……と頭をひねって反訴を絞り出しました。こんなんでいいのかよと思いながら書きましたが一応これもありな模様。

給付の訴えを提起すると確認の訴えは訴えの利益を欠いて不適法となるというのはなるほどという感じですが聞いたことがなく思い浮かばなかった…。

主観的追加的併合は落としました……。言われてみればそうなんですけどね。

あとは重複起訴の当てはめを丁寧にやりすぎた気がします。他方で訴訟物については問題文で要求されているのだからもっと書くべきだったかも。

 

設問1課題(2)

小問(1)に紙幅を割きすぎたことと管轄というマイナー分野で途方に暮れたことからあとでやろうと飛ばしたのですが、結局時間がなくなりやっつけになりました。

国際私法選択として管轄は多少有利だったはずなので、もったいなかったです。とはいえ、みんなができるところをしっかり書ききるというコンセプト的にはここができなくても問題ないと思います。

 

設問2

典型論点である自己専利用文書に飛びつかなかったのは我ながら良かったと思います。ただ利益文書というのはまったく知らずまるまる落としました。さらに220条の構造自体をよくわかってなかっていないことが露呈しています(2号を認定しつつ4号ハを検討している点)。

職業上知り得た事実のほうについてはこんなもんだろうと思います。

 

設問3(ア)

パッと見設問が何を聞きたいのかわからず焦りましたが、落ち着いて条文を見ると上訴もできるということがわかったので事なきを得ました。さらにそれをしながら補助参加ができるということも条文に書いてありました。結構アクロバティックな気がするんですがこんなのもありなんですね……。

ただ、これだけでいいかは自信がないです。

 

設問3(イ)

ここは模試でもやったし無難に処理できたと思います。

 

民訴は民法と並んで今年克服を目指した科目です。結果的に弁論主義も既判力も出ず肩透かしでしたが、文提はある程度予想していたし、重複起訴や補助参加も何度か書いていたし、なんだかんだ勉強の成果は出たと思います。

上記のように色々と抜けがあるのですが、今年の問題は難易度が高かったようなのでこの程度でも合格ラインに乗っていることを祈ります。

 

なお、再現答案を掲載しているのは自信があるからではなくこうでもしないと書く気が起きなかったからです。色々と間違っていると思いますがあしからず。

H30司法試験再現答案―民法

設問1
1 Bの主張
 Bは本件売買契約(民法(以下略す。)555条)に基づき50万円の代金支払請求をする。
 同契約は目的物引渡しの合意と代金支払いの合意により成立するところ、平成29年9月21日において、目的物松茸5キログラムの引渡しの合意と代金50万円支払いの合意がなされているから、成立している。
2 Aの反論
(1) 同時履行の抗弁権
ア Aは、Bが目的物松茸5キロをAに引き渡しておらず、同時履行の抗弁権(533条)により代金支払義務はないと反論する。そこでBが「履行を提供」したといえるか問題となる。
イ 法が不特定物の履行につき特定を要求した趣旨は、債務者に課される無限の調達義務を軽減し債務者を保護する点にあるから、履行対象が確定されている必要がある。そこで,「履行を提供」とは、不特定物の場合、「必要な行為を完了」(401条2項)することで目的物を特定することを要する。
 したがって、債務者の住所で履行を行う取立債務の場合は、①目的物を分離及び準備をして、②債権者に通知することが必要である。
ウ 本件で、Bは松茸を収穫し、乙倉庫に運び入れた上で、5キロ分の箱詰めをしている(①)。さらに、債権者Aに引渡準備が整った旨を電話で連絡し通知している(②)。
 したがって、「必要な行為を完了」しており、「履行を提供」したといえる。
エ よって同時履行の抗弁権に基づき代金支払いを拒むことはできない。
 (2) 危険負担
ア 本件では目的物である松茸5キロが盗難により滅失している。そこで、それと牽連関係にある反対債務である代金50万円の支払債務も消滅したのではないか。
イ 原則として、債務の牽連性から、反対債務も消滅する(債務者主義。536条1項)。もっとも、当事者の公平の観点から、目的物の滅失が債務者の責めに帰することのできない事由による場合は、反対債務は存続する(債権者主義。534条1項)。
ウ そこで、本件で特定され「特定物」となった松茸の盗難が債務者Bの責めに帰することのできない事由によるといえるか。
(ア) 債務者は目的物の保存につき善管注意義務を負う(400条)。もっとも、債権者に受領遅滞(413条)があれば、公平の観点から債務者の注意義務は軽減され、悪意または重過失がある場合にのみ義務違反となると解する。
 Aは受領遅滞に陥っているか。債権は権利であって義務ではなく、受領遅滞は公平の観点から不利益を債権者に負担させる法定責任であると解する。したがって、債権者に原則として受領義務はなく、受領遅滞に陥るのに過失は不要である。
 したがって、本件で21日午後8時の時点でAは受領遅滞に陥っている。
(イ) ではBに松茸の盗難につき悪意又は重過失があるか。悪意はないので重過失につき検討する。
 たしかに、警察から近隣で農作物の盗難が相次いでおり注意喚起すべきとの情報を受け、倉庫をしっかりと施錠すべきだったのに、Bが手足として使用し、その過失につきBが責任を負う履行補助者であるCは、Bの指示を失念し倉庫を普段どおりの簡易な錠のみで施錠しているという過失がある。しかし、盗難の危険が高いであろう深夜は強力な倉庫錠で二重に施錠していること、翌朝も施錠自体はなされていること、二重に施錠されていなかったのはわずか3時間にすぎないことからすると、松茸の保管義務につき一定の注意は果たしており、重過失があるとまではいえない。
 したがって、Bに松茸の盗難につき悪意及び重過失はない。
(ウ)よって、松茸の盗難は債務者Bの責めに帰することのできない事由によるといえる。
3 結論
 以上より、反対債務である代金支払債務は存続するから、BのAに対する上記請求は認められる。

設問2
1 小問(1)
(1) Eの請求は、丙土地所有権に基づく妨害排除請求権としての丙土地明渡請求である(206条、202条1項参照)。
 上記請求が認容されるには、①Eの丙土地所有と②Dの丙土地占有が認められることを要する。①は認められるから、②について、所有権留保売買契約の性質が問題となる。
(2) 所有権留保売買契約とは、売主が目的物の引渡しを終えつつ、代金が完済されるまで目的物の所有権を留保することをいう。その法的構成については、当事者に担保権として留保している意思があるかにより判断する。
(3) 本件で、約定③より甲トラックを担保として支払いを強制するものであることが見て取れ、さらに約定⑤により返却時はトラックを売却しそれをもって債務弁済に充当するとされていることから、実質的に担保権として使われている。したがって、売主である留保所有権者Dは残債務弁済期までは当該動産の交換価値を把握するという担保権を有するにすぎないと解する。
 そして、たしかに、甲トラックにつき盗難届けが出ており、またDもこれを知っている。しかし、あくまで残債務弁済期である平成32年11月9日はまた経過しておらず、Aから売買代金も支払われているのだから、Dは甲トラックにつき担保権を有するにとどまり、占有・使用権限を有しない。
 したがって、②は認められない。
(4) よって、Dの発言は、Eの請求の請求原因であるDの丙土地占有を否定する理由となるものであり、正当である。
2 小問(2)
(1)Dに甲トラックの登録名義があることを理由にDの丙土地占有が認められるか。
(2)ア 道路運送車両法5条1項が、不動産の登記同様(177条)、登録を受けた自動車につき登録を受けなければその所有権の特喪を第三者に対抗できないとした趣旨は、自動車は価値が高く、また取引が通常の動産と比してそこまで頻繁といえないことから、登記類似の公示制度を設け、第三者保護を図ることにある。
 そうすると、「第三者」は177条の第三者と同様に解し、当事者及びその承継人以外の者で、登録の不存在を主張するにつき正当な利益を有する者をいうと解する。
 本件で、Eは甲トラックにより土地を不法占拠されている者であり、取引関係等に入ったわけではないから、「第三者」には当たらない。
イ もっとも、自らあえて登記を保持し、さらにそこから利益を得ているような事情があり、さらに現実の侵害者が見当たらないなどの事情がある場合は、公平の観点及び請求の便宜の観点から、信義則上(1条2項)、登録保持者への請求を認めるべきである。
 本件で、本件契約は所有権留保だから、Dは登録抹消を懈怠していたわけではないが、甲トラックの盗難届が出ていることを知っているにもかかわらず、依然登録を保持し、毎月4万円の代金支払いを受けるという利益を得ている。また、現実の侵害者であるAの所在は不明である。
 したがって、信義則上登録保持者であるDへの請求を認めるべきである。
(3) 以上より、Dの発言は失当であり、Eの請求は認められる。

設問3
1 前提
(1) 定期預金
ア まず、前提として、Cが有していた遺言①の定期預金は遺産分割の対象となるか。
イ 金銭のように遺産分割の調整に資する財産も遺産分割の対象とすべきであること、そして、仮に当然に分割されるとすると口座に新たに入金が行われた際の計算が煩雑となることから、定期預金債権は当然には分割されず、不可分債権として遺産分割の対象となると解する。
ウ したがって、2000万円が積極的相続財産となる。また、Cが有していた300万円の債務が消極的相続財産となる。これも不可分債務として遺産分割の対象となる。
(2) 相続人
 HはCの子であるから相続人となりうるが(887条)、廃除の審判がされており(892条)、遺言でも「廃除の意思を変えるものではない」とされているから、廃除の取消し(894条1項)もない。したがって、Hは相続人から廃除され、F・GのみがCの相続人となる。
2 遺言の解釈
(1)「相続させる」の意義
ア 本件遺言②及び③の「相続させる」の意義が問題となる。
イ 遺言は遺言者の最期の意思表明であるから、遺言者の意思を合理的に解釈すべきである。法定相続人に対して「相続させる」旨の文言がある場合、当該相続人も他の共同相続人とともに当然に当該遺産を相続するのだから、当該遺産を当該相続人に単独で相続させる趣旨と解釈すべきである。
 すなわち、遺贈と解すべき特段の事情がない場合は、遺産分割方法の指定(908条)とすべきである。したがって、相続財産は直ちに当該相続人に帰属する。
(2) 遺言④について
 遺言④は、Hが相続人から廃除されていることから、遺贈と解することができる。したがって、Hは200万円の定期預金を得る。
(3) 遺言②、③及び300万円について
ア 遺言②及び③については遺贈と解すべき特段の事情はないから、遺産分割方法の指定と解し、Cの死亡により、各々に2対1の割合で分割される。消極財産である300万円についても同様である。
 積極財産として、Fは1200万円の定期預金、Gは600万円の定期預金を得る。300万円の債務についてはFが200万円、Gが100万円を負担する。
イ したがって、FはGに対して余分に支払った100万円につき、不当利得(703条)として返還請求をすることができる。
以上

 (3601字)

 

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発表も近いですが、少し前に書いたので投稿します。答案構成に従って書きましたが、他の5科目に比べると当時の記憶はほとんどないので再現率は低いです。

設問1について

同時履行と危険負担という大筋は書けたと思いますが、履行を継続しないと抗弁権を消滅させられないというのは抜けてしまいました。

あと、同時履行の「履行の提供」と不特定物の特定のための「必要な行為を完了」をごっちゃにしてしまいました。

あと、受領遅滞があったときの注意義務の軽減は自己の財産に対するのと同一の注意義務とすべきですが悪意重過失以外としてしまいました。まぁ同じようなものだと思いますが……。

あと答案構成用紙のメモに、「Aが受領しないとBに著しい損害が生じるか」のについての事実が書いてあるのですが、これは受領遅滞に基づいて損害賠償請求ができるかという話なので、本問とは関係ないですよね?おそらく書かなかったかと思うのですが……。

 

本番では結構できたと思った問題なんですけど、色々とボロが出てますね……。

 

設問2小問(1)について

所有権留保は担保権的構成にしました。判例の残債務弁済期についてちゃんと書いたか怪しいですが概ね良いと思います。

所有権留保の法的構成については約定を参考にする必要があると思うのですが、どの程度引用したかは不明です。③と⑤に丸がついていたのでおそらくこれは引用したかと思います。

 

設問2小問(2)について

完全にやらかしました。平成6年判例の射程が及ぶかどうかの問題ですよね。何を思ったか177条の第三者と同視するとかいうトンデモ理論を書いてしまいました…。やはり現場での思いつきは100%死です。

一応信義則でむりやり修正したので結論自体はかろうじて守れたと思います。

 

設問3

答練で何回もやった相続させる旨の遺言が出て笑いました。しかし時間がないので焦ったのか、金銭債務を誤って不可分債務としてしまった……。致命的である。

100万円請求できるという結論について、金銭債務は可分債権なのだから遺産分割の対象にはならないはずで、法定相続分に従い150万円請求できるとするのが正しかったと思います。結論の間違いは痛い……

あと、きちんと三段論法ができた記憶がないのですが、最後の設問で時間もないしまぁこんなものではないでしょうか。

  

民法は苦手でしたが、①条文を解釈するという姿勢を見せる、②結論の妥当性に意識を向ける、ということに気をつけるようにしてから比較的点が伸びるようにはなったと思います。この答案にもそこそこの点数がつくことを期待します。

この夏のライブを振り返る。

就活も終わって夏休みを満喫しています、ぺんぎんです。

この1ヶ月は何をしていたかというと、タイ旅行に加えて……

・ライブとフェス

・サーフィンと海

・打ちっぱなし

・祭り

・勉強道具の片付け

・司法試験予備校でのバイト

・家で映画を見まくる

・BBQ

・飲み会

・合コン

 

悠々自適すぎます……。

果たしてこんな暮らしに慣れてしまって社会人生活に適応できるでしょうか???まったく自信がありません。

 

ライブはワンマン2つとフェス2つ(ロッキンとサマソニ)に行きました。フジロックはなぜか今年も行けませんでした……。

なんでだろう。大学・大学院のときは7月の終わりというとちょうど試験期間でずっと行けなかったんですよね。今年はやっと初めて時間的に行けたのですが、遠いのに加え一回も行ったことがないというのが心理的ハードルになっているようです。兄が毎年行っているので羨ましい限りです。

今回は今年の夏に見たアーティストについて一言ずつコメントしていこうと思います。もはや留学と何も関係がないですが……。

 

【洋楽】

Noel Gallaghers High Flying Birds

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今年はノエル御大がサマソニのトリを勤めてくれました。ノエルは終始期限がよく、セットリストもオアシス曲5曲とサービス精神旺盛。逆にソロ曲が少なくて残念でもありましたが……。オアシスの曲をやってくれるのはもちろん嬉しいんですが、やっぱりノエルソロはオアシスではなくあくまでカバーなので。それはノエルがボーカルを取る曲をとっても同じです。なんだかもどかしい気分になってしまう。

大のオアシスファンの友達は「ノエルはワンマンで見たいから今回はあえて行かない」とテームインパラの方に行ってしまいました。すごいですね、ファン根性。確かに僕もノエル愛がそんなにない奴らと見て「いや、もっと盛り上がれよ…。てかちゃんとアルバム聴いてる?」となってしまったので、気持ちはわかります。

最後の曲がビートルズのAll you need is loveでした。いいですね、泣けます。最近ライブですぐ泣くのですが、この曲は個人的に思い出深く泣いてしまいました(高校生のときに当時の彼女とイヤホンを片方ずつ耳に入れて聴いてました。青春ですね……)。

ちなみに"I'll see you next year"的なことを言っていたので来年日本に来るようですね。友達の予想的中、流石である。

 

The Charlatans


The Charlatans - Weirdo, Isle Of Wight Festival 2009

往年のシャーラタンズはWeridoが最高にかっこよかったですね。あのグルーヴとキーボード、たまりません。

全体的には僕が普段聴いている曲と乖離があって満足感はイマイチです。ライブの醍醐味かもしれませんが、普段聴いてる曲が演奏されないもどかしさがすごい。ティムバージェスは年をとってもイケメンだった。

 

Tame Impala


Tame Impala The Less I Know The Better (no intro) Optional Subs

テームインパラはノエル終わりにちょこっと見たのですが、サイケでかっこいい。

酔っ払って見れたら最高でしたね…(風邪を引いていたのでビール1杯しか飲めなかった)

 

Mastodon

僕はメタルは全然聴かず、ライブも初めて見たのですが革命が起きそうでした。ロックのライブと違った異様な空気に包まれているし、モッシュは始まるし…。音楽やモチーフはかっこいいとは思わないのですが、そういうのがどうでも良くなる独特のパワーがあります。

サークルでめちゃガタイのいい外国人が体当りしあっていて死の危険を感じました。僕も入ったのですが楽しかったです。

 

 

【邦楽】

[Alexandros](ワンマン)

ここ数年ハマっているバンドなんですが、死ぬほど感動しました…。初っ端のワタリドリ〜For Freedom〜cityの流れでなぜか猛烈に号泣。歌詞が本当に突き刺さるんですよね。このあたりは似た感性を持つ日本人バンドの良さだと思います。感情移入しやすい。

ワタリドリがやたらと有名ですが他にもいい曲が山のようにあります。最近は邦ロックよりの曲が多いですが、ゴリゴリのロックもあり、洋楽好きの人でも気にいるかと思います。下の2曲なんかがそうです。


[Alexandros] - For Freedom (MV)

 


[Alexandros] - Kill Me If You Can (MV)

それにしても、ゾゾマリンを埋める集客力、デカイバンドになったものです。また改めて感想を書きたいです。

 

パスピエ(ワンマン)

メチャクチャ演奏力が高い。曲のクオリティがものすごい。最近は録音技術がすごくてライブに行くと音の悪さにショックを受けることが多いのですが、パスピエはむしろCDの音を上回る素晴らしい演奏でした。

東京事変とかが好きなら気にいると思うのでみなさんも是非聴いてみてください。司法試験の勉強のときに鬼リピしていました。


パスピエ- S.S  Music Video

サブカル臭がすごくて敬遠される方が多いと思うんですけど、声は慣れます。僕も最初は正直苦手でしたが。この曲は一番好きなのですがアンコールでやってくれて最高でした。

 


パスピエ - スーパーカー, PASSEPIED - SUPERCAR

この曲は何回も聴いてるとハマって抜け出せなくなります。

 

フレデリック

ボーカルの声が若干キモいですがやはりノリは良いです。オドループ聴けてよかった。あとギターはめちゃくちゃうまいと思います。

オドループの一発屋感がありましたが、最近の曲はベース中心なロックにシフトしていっており、なかなか良いです。キッズのファンが離れないか心配です。

 

Ivy to Fraudulent Game

友人の勧めでここ半年聴いているバンド。ボーカルがV系ぽくイマイチなのですが曲のクオリティは非常に良いです。dulcetというマイブラそのものの曲があるのですが、ライブのSEもマイブラのSometimesでした。

非常に小さいハコで見れたので満足。これから有名になれるのか楽しみですね。

 

ZAZEN BOYS

ゆるい。よい。これぞロックって感じです。

あんまり古い邦楽は詳しくないんですが、勉強していきたいもんです。

 

KANA-BOON

やはり演奏とかは単調ですが、すごい人気。ファーストの曲が好きなんですがあまりやってくれない。シルエットは流石の盛り上がり。

 

NICO Touches the Walls

完全なオワコンバンドだと思っていたのですが(すみません)、今でもこんなに人気あるんですね。ボーカルがマジでイケメン。ホログラムが聴きたかった……。

 

Yogee New Waves

最近良く聴いているバンドです、こういうジャンルは何ていうんでしょうか?シティポップ?古き良き日本のポップスって感じがしてとても良いです。

できたらビーチステージで寝転んで聴きたかったところですが、満足。


Yogee New Waves / CLIMAX NIGHT (New Version - Official MV)

この曲は残念ながら聴けませんでしたが……。

 

 

never young beach

元々ヨギーと被りがちな感じなんですが、同じ日に聴いて余計セット感が増しました……。ヨギーに比べるとより昭和感が増して、よりリラックスした感じです。

ビーチステージで聴くネバーヤングビーチは最高でした。これほど最高のステージはないでしょうね。


never young beach -あまり行かない喫茶店で(official video)

 

 

MAN WITH A MISSION

僕は洋楽も邦楽もロックは何でも聴くんですが、マンウィズとワンオクはなぜそんなに人気があるのがイマイチ腑に落ちません。いや、十分かっこいいんですが、リンキンとか昔のティーン向け洋楽の焼き直し感がすごいですし、そっちを聴けばいいやんと思ってしまいます。

ただ実際に生で見ると演奏が力強く迫力に圧倒されました。ライブを見て彼らが人気な理由が少しわかったような気がします。

 

(以下1曲だけ)

グッドモーニングアメリカ

ダサいがパワーがある。

 

ポルカドットスティングレイ

サブカル感満載だが結構好き。

 

神様、僕は気づいてしまった

某有名曲が聴けたので満足。覆面バンドは得である。

 

あいみょん

あー歌詞抜けたぁ!と言っていて可愛かった。

 

 

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フェスはいいですよね、色んなバンドが見れるので得ですし、あんまり聴いてなかったけど意外といいなと思うアーティストもいたりして自分の興味の幅が広がります。

思えば高校のときは突っ張ってほとんどUKのロックしか聴いてなかったのですが、なんでも聴くようになりました。変な角がとれたということでしょうか?あるいはこだわりがなくなってつまらない人間になったのかもしれません。

 

 

8年ぶりの……

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 バンコックは雨期だった。空気はいつも軽い雨滴を含んでいた。強い日差しの中にも、しばしば雨滴が舞っていた。しかし空のどこかには必ず青空が覗かれ、雲はともすると日のまわりに厚く、雲の外周の空は燦爛とかがやいていた。

 驟雨の来る前の空の深い予兆にみちた灰黒色は凄かった。その暗示を孕んだ黒は、いちめんの緑のところどころにヤシの木を点綴した低い街並みを覆うた。

 

 三島由紀夫暁の寺豊饒の海・第三巻―』より 

先日、友人とタイに行ってきました。

タイは僕にとって特別な国です。というのも、初めて行った海外の国がタイでした。今から8年も前のことです。

僕は大学に入るまで海外に行ったことがなく、大学1年の夏休み、一人で1ヶ月ほどかけて東南アジアを旅行したのですが、最初に降り立った国がタイだったのです。

その旅行はバンコクから始まり、チェンマイまで北上し、ラオスに入って、フエからベトナムに入り、ホーチミンまで南下して、カンボジアに入り、またバンコクに戻るというものでした。バスや電車のみを使ってインドシナ半島を一周するというものです。

 

タイの中でも最初の街であるバンコクは一際特別です。今でも色々な記憶が鮮明に蘇ります。僕が仮にアナザースカイに出ることがあればバンコクを選ぶでしょう(フィラデルフィアかな?)

スワンナプーム空港に降り立ち、初めて外国の貨幣を使い、英語を話し、海外に来たんだと実感してものすごく興奮したこと

しかし、すぐに自分の英語力の無さを痛感し、この先やっていけるのかと不安になったこと

バックパッカーの聖地であるカオサン通りに宿を取ったものの、部屋に窓が無く毎日こんなところに泊まるのかと絶望したこと

食事をしに近くのレストランに入ったら、客が自分しかおらず、これから1ヶ月ひとりぼっちなのかと絶望したこと

しかし、その店でジョーと名乗る店員が話しかけてきてくれて、そうか、こうやって周りの人とコミュニケーションを取れば自分は一人では無いじゃないか、と気分が明るくなったこと。

 

タイにはまた来たいと思いながら、特別な場所であるだけになかなか気が向かず、結局8年間一度も再訪せずじまいでした。

本当はまた来るなら一人で来て思い出に浸りたいところでしたが(友達と来ると自分の清き思い出が汚れてしまうかな…とかしょうもないことを思いながら)、この機会を逃したらまたしばらく来ないだろうな、と思いローの友達と3人で来たわけです。

 

 

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今回はナナ駅近くのわりといいホテルに泊まり、伊勢丹で買い物したりと前回の貧乏旅行とはまた違いましたが、やはりバンコクはいいですね…。8年経ってだいぶ洗練されてきたとは思うのですが、やはり汚いところはそのままだし、街全体に溢れる活気は変わってないなぁと思いました。

そしてもちろん行ってきました。

 

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すべての始まり、カオサン通りです。

やっぱりこの場所は別格ですね……。ワット・アルンとかワット・ポーとか観光地に行っても特になんとも思えない僕ですが、カオサンに来たときはありえないほどテンションが上りました。本当に懐かしい。

 

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大好物のパッタイも食べました。僕はパクチーも辛いものも苦手なので、タイにいた10日間は毎日バカみたいにパッタイばかり食べていたものです……。

 

 

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ガイドブックオススメの店でカオマンガイも食べてきました。ここの店のカオマンガイ、本当にありえないほど美味しいです。

実は日本にも上陸していて渋谷にお店があるようです。読者のみなさんもぜひ行ってみてください。ガイトーンというお店です。本当に美味しいです。

 

 

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8年前も行ったアユタヤも行ってきました。

タイの古都というとスコータイとアユタヤがあります。スコータイは遺跡群と街が完全に別れてしまっていてイマイチ面白みに欠けるのですが、アユタヤは街の中に遺跡が点在しており、街と遺跡が調和しています。前回は自転車で巡りましたが今回は原付きを借りました。原付きでアユタヤの街をかっ飛ばすのはなんとも言えないものがあります。

 

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思い出に浸ってみると、8年前に比べると法律の知識もついて、アメリカ留学を経験して英語もだいぶ上達したし、社交性もついたように思います。そこは喜ばしい。

他方で当時のほうが本を読んでいたし、何より当時の瑞々しい感性みたいなものは失われてしまったかな……と。太宰の斜陽で直治が「快楽のインポテンツ」という言葉を使っていましたが近いものがあるかもしれません。まぁ、当時ははじめての海外だったのに対して、今回は2回の留学と25カ国の渡航を経てなのだから当たり前ではあるのですが。若い頃は経験するものすべてが新しく、強烈な感動を与えてくれてよかったなぁ、と思ってしまうわけであります。

今でも 鮮明に覚えているんですが、スコータイ近くのピッサヌロークからチェンマイまで夜行電車に乗ったとき、深夜に一人で電車のデッキのところに出て、「あぁ、人生にこんなにも楽しいことがあったんだ」と興奮したことがあります。あの冒険感、全く見知らぬ土地を一人で進む高揚感、ものすごいものがありました。多分、あのときの気持ちをまた味わえることはもう無いのかなぁ。

 

……なんか、バー受験のあとタイムズスクエアに行ったときについてもおんなじようなことを書いていましたね?笑 そこでも書いたけれども、何年経っても自分の根本的なところは変わっていないわけで、それはどこに行っても自分は自分である、ということなわけで、ある意味安心でもあります。そんなしょっちゅう変化をしているようでは逆に不安になる。

 

ともかく、8年ぶりのタイ、色々なことがフラッシュバックして、全てに既視感を感じて、とてもいい旅行ができました。また折に触れてタイには訪れたいものです。

内定と就活終了のご報告

ブログ読者の方への説明義務を果たすためにもご報告をと思うのですが、先日無事に希望していたところから内定を頂き、就職活動を終えました。

就職については試験が二度目であったこと、年齢的な問題などもあり非常に不安だったので、一安心です。本当に安心しました……。

就活は試験とは違って何がどう評価されるかわからず、内定を得るまでは自分がどの程度までいけるかとにかく不安で、「全部ダメだったらどうしよう」という独特の怖さがあったと思います。その意味で紙でしか評価されない試験というのは極めてフェアだなぁなどと思いました(その分、どんな人間でも試験対策さえすれば通ってしまう問題もありますが)。

他方で、就活も何だかんだで内定を貰えそうな人はすぐに貰えたり、貰えなさそうな人はなかなか貰えなかったり、運も大きいですが比較的実力が如実に出る勝負であるのかもしれません。

などと偉そうに言ってますが、僕も就活は大変苦労しました。就活セミナーに出たり、友人と何時間も自己分析をしたり、色々なところの説明会に足を運んだり、ああだこうだ言いながらESを練ったり……。最終的に内定が貰えたのは、そうした努力が実を結んだことに加え、面接官の人とフィットしたとか、話がたまたま合ったとか、運にも救われたなと思う次第です。留学経験や英語力も活きた(と思う)ので、今まで自分が力を入れていたことが評価をされて素直に嬉しく思っています。

大学院生は学部生に比べると経験が多く面接で話すネタは多いですが、その分それに一貫性をもたせるのが大変ですし、未熟前提の学部卒に比べてある程度の成長を見せなければならないので、学部卒の就活とはまた違った難しさがあるのかなと感じました。

 

大学院に行ったり、留学したりして色んな経験は積んだものの、就職が決まるまでは、「このままいわゆる高学歴ワーキングプアになったらどうしよう」などととにかく先が見えず落ち着かない日々を大学卒業から過ごしていましたが、やっと一つヤマを超えたような気がします。

とはいえこれからやっとスタートラインに立てるわけでもあるので、改めて気を引き締めて頑張らなきゃなぁ、と思う所存です。

H30司法試験再現答案―刑法

設問1
1 乙がA高校の役員会において「2年生の数学を担当する教員がうちの子の顔を殴った」と発言したことにつき、丙に対する名誉毀損罪(刑法(以下略す。)230条)が成立しないか。
(1) ア「公然と」とは不特定又は多数人が認識しうる状態をいう。もっとも、同罪の保護法益が人の名誉に関する外部的社会的評価であるところ、これは特定少数に対するものでもそれを通じて不特定又は多数の者に伝播する可能性がある場合は害されるから、その場合はなお「公然と」に当たる(伝播性の理論)。
 本件ではA高校の保護者と校長と特定され、かつ4人という少数に対して発言が行われており(判例は8人で少数としている)、この要件を満たさないとも思える。
 しかし乙が上記発言をした際特に口外しない旨告げていないし、役員会にそのような規定は見られない。実際に、乙の「徹底的に調査すべきである」との発言に基づき校長が丙や他の教員に対する聴き取りを行い、A高校の教員25名全員という多数人(判例は25名で多数としている)に噂が広まっている。
 したがって、多数の者に伝播するおそれがあったから、「公然と」の要件を満たす。
イ「事実を摘示し」とは事実が真実か虚偽かは問わない。
 本件で乙は上記のように暴行の「事実を摘示し」ている。
ウ 「人の名誉を毀損した」とは、特定人の外部的社会的評価が低下するおそれを生じさせることをいい、実際に低下したことは要しない。
 本件で、「2年生の数学を担当する教員」と言っており特定の人に対するものであるか問題となるが、A高校2年生の数学を担当する教員は丙だけであり、保護者や教員は発言が丙を指していると容易に特定できるから特定性には欠かない。
 そして、教員にとり体罰をふるったという事実はその生徒を監督する立場としての丙の外部的社会的評価を低下させるものであるから、上記発言により「名誉を毀損」している。
 したがって、「人の名誉を毀損した」といえる。
(2) また、乙は上記事実を真実と信じていたものの、丙に対する恨みを晴らすために事実を摘示しており、同罪の故意が認められる。
(3) また、乙には「公益を図る」目的はないから230条の2第1項の適用はない。
(4) 以上より、同罪が成立する。
2 上記行為に丙に対する信用毀損罪(233条)が成立するかにつき、同罪にいう「信用」とは人の経済的側面での信用をいうから、これに当たらず、成立しない。
3 よって、乙には丙に対する名誉毀損罪一罪が成立する。
設問2
1 小問(1)
(1) 甲が乙の救助を行わず去ったところ、乙は意識を取り戻し崖に向かって歩いたことで転落し重症を置負い、そのまま放置されれば死亡する危険があった。
 そこで、甲が乙を救助しなかったことにつき殺人未遂罪(203条、199条)が成立しないか。
(2) ア 殺人罪(199条)の実行行為は、人の死亡結果を発生させる危険を有する行為をいう。これは原則作為によって行われるが、不作為によっても実現できる。もっとも、罪刑法定主義の見地から、不作為が作為と同価値といえる程度に限定される必要がある。
 そこで、①法令・条理・先行行為・排他的支配・危険の引受け等から作為義務が認められ、かつ②作為の容易性・履行可能性があるときにのみ、不作為が殺人罪の実行行為に当たると解する。
イ ①について
 まず、甲と乙は他人ではなく同居の親族である以上一定の条理上の義務は肯定しうる。そして、乙の死亡結果の危険が生じたのは甲が崖近くで意識を再び喪失し、更にそこで起き上がろうとして転落したことによるところ、乙が崖近くまで歩いたのは甲が「親父。大丈夫か」と声をかけた行為によるのだから、乙に危険発生の先行行為が認められる。
 そして、現場は町外れの山道脇の駐車場で、時間も午後10時30分と夜間で、車や人の出入りはほとんどなかった。仮に出入りがあったとしても、乙が転倒した場所は草木に覆われた死角となっており、山道・駐車場からは乙が見えなかったこと、そして駐車場には街灯がなく深夜で暗かったことからすれば、第三者が乙を発見する可能性は極めて低い。そうすると、乙を救助できたのは甲だけであり、一定の排他的支配が認められる。
 以上から、甲に、乙の自動車に乙を連れて行く作為義務が認められる。
 ②について
 甲が乙の自動車に乙を連れて行くことは容易であり、かつそれによって乙が崖下に転落することが確実に防止できたのだから、作為の容易性・履行可能性が認められる。
ウ したがって、甲の不作為は殺人罪の実行行為に当たる。
(3) 殺人における故意(殺意)とは、死の結果発生を認識・認容していることをいうところ、甲は、乙が点灯した場所のすぐ側が崖となっており、崖下の岩場に転落する危険があることを認識した上で、殴られたことを思い出し助けるのをやめているのであるから、崖下転落による死亡の結果発生を認識し、のみならず認容していたといえる。
 したがって殺意が認められる。
(4) 乙は一命を取り留めて死亡しておらず、「未遂」に終わっている。
(5) 以上より、甲に乙に対する不作為による殺人未遂罪が成立する。
2 小問(2)
(1) 保護責任者遺棄等罪(不保護罪。218条)は「保護する責任のある者」が「生存に必要な保護をしなかった」ことにより成立する。
 不作為による殺人とは、①作為義務の程度と死亡結果発生の危険の程度による実行行為性の有無、及び②殺意の有無により区別される。
(2) ①について
ア 親が子の監護義務を有するのに対して(民法820条)子にはなく、また乙の意識喪失は丙との話し合い中に発生しており甲は関与しておらず、法令や先行行為から作為義務を肯定することは困難である。
 そして、たしかに乙が崖の方に10メートル歩いたのは甲の声掛けによるが、これ自体は乙の安否を憂慮して行ったものであり違法な先行行為ではないし、危険状態に置くことを意図したわけでもない。
 そして、たしかに第三者が乙を発見する可能性は低く一定の甲による排他的支配は認められる。しかし、乙の怪我自体は軽傷であり、そのまま意識を回復して自力で自動車に戻ることも考えられるのだから、甲が乙の危険をコントロールできたわけではない。

 そして、乙は甲自身の声掛けに対して甲がいることすら気づかず、意識がハッキリとせず自動車と反対方向に歩いたりしているのだから、再び意識を回復し崖下の方向に歩いて転落する危険はあるが、あくまで一定の危険というレベルに留まり、落下の蓋然性は必ずしも高くない。仮に落下したとしても、5メートルの高さであれば必ず死亡するわけでもない。
 そうすると、甲が乙を排他的に支配し死亡結果発生の危険を創出したとはいえない。
イ 以上より、乙死亡の危険は低く、不作為の殺人罪における作為義務は肯定できず、同罪の実行行為はない。
(3)②について
ア 殺意に必要な死の結果発生の認容とは「死ぬかもしれないが死んでも構わない」というレベルのものが必要である。
イ たしかに、甲には乙から顔を殴られ叱責されたという動機があるし、乙が転倒した場所のすぐそばが崖となっており崖下の岩場に転落する危険があることを認識していた。
 しかし、上記動機は強いものではないし、乙は「助けるのをやめようと考え」ただけであることからも、死んでも構わないとまで思っていたわけではない。
ウ したがって、死の結果発生の認容はなく、殺意は肯定できない。
(4) 甲は、乙と同居の親族であること、自ら声をかけたこと、乙の危険を認識していたことなどにより「保護する責任のある者」には当たる。そして、乙を自動車に運ぶという「生存に必要な保護をしなかった」。
(5) よって、保護責任者遺棄等罪が成立するにとどまる。
設問3
(1) 甲に丁に対する殺人未遂罪は成立するか。まず実行行為該当性を①作為義務の有無と②作為の容易性・履行可能性から検討する。
ア ①について
 たしかに、丁は甲と無関係の他人であり、何らの先行行為もないのだから、丁を救助する作為義務は存在しない。しかし、乙については、親に生じた危難について子は親を救助する義務を負うとの立場に立ち、設問2(1)のように考えると、救助する作為義務が認められる。
 そして、甲の認識では丁が乙であったのだから、甲が乙(実際は丁)を救助をするためにこれに近づけば救助することができた。
 そして、乙と丁はともに人であるからそれを救護する義務は構成要件内で符合しており、さらに、甲と同じ立場にいる一般人でも丁を乙と誤認する可能性が十分に存在したのだから、甲に丁を救助する作為義務も認めることができる。
イ ②について
 そして、携帯電話で119番通報を行い手術を受けさせることは容易であった。
ウ したがって殺人罪の実行行為に当たる。
(2) 殺意につき、甲は「乙が死んでも構わない」と思っており、死亡結果発生の認識・認容が認められる。
(3) 丁は一命を取り留めており、「未遂」に終わっている。
(4) 以上より、丁に対する殺人未遂罪が成立する。
以上

(3590字) 

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憲法会社法の次にやらかした感が強い科目です。問題文を開いたときの驚きは今でも忘れられません……。

設問1

名誉毀損はもちろん抽象的危険犯ということはわかっていたのですが、伝播性のところで若干現実的ぽく書いてしまったように思います。もしかしたらうっかり「25人という多数に広まったから『公然と』といえる』」と書いてしまったかもしれません……。

あと特定性は「事実を摘示し」の構成要件で論じるべきでした。一見簡単そうな問題でしたが確実・正確に構成要件に当てはめることの難しさを知りましたね…。

正当行為とか違法性阻却とかは色々頭に浮かんだのですがぐちゃぐちゃしそうなので思い切って捨てました。結果的には犯罪は成立するのだからそこまで大きなマイナスでないといいのですが。

信用毀損はつい心配で書いてしまいましたが余事記載だったと思います。

 

設問2

保護責任者遺棄との違いについて、殺意以外は知らなかったのですが、流石にそれだけではないだろうと問題文の事情等から考えて書きました。

生命に対する危険のレベルで分ける学説があるようで、それっぽいことは途中で思いついて書いたのですが、作為義務のレベルでもわけるとして書いていたところに付け加える感じになり、ぐちゃっとしてしまったと思います。とはいえここは典型論点ではないので、この程度書ければ良かったかな?と考えています。

 

設問3

何が何やらわからず混乱したのを覚えています。再現はおそらく盛っていて、本番はもっとぐちゃっとしたことを書いたように記憶しています。因果関係とかも書いてしまったような……。難しい問題でした。

 

再現を楽しみにしている方がいらっしゃるかもしれませんが(いるのか…?)少し忙しくなってきたので残り3科目はしばらくアップしないと思います。よろしくおねがいします。

H30司法試験再現答案―会社法

設問1
1 Dの請求
(1)Dは会社法(以下略す。)433条1項1号に基づき甲社に対して総勘定元帳及び補助簿のうち仕入れ取引に関する部分の閲覧請求を行う。
(2)ア Dは甲社発行株式1000株の五分の一に当たる200株を有する「発行済株式の百分の三以上の数の株式を有する株主」(同項柱書)である。
イ 「会計帳簿又はこれに関する資料」(同項1号)とは、閲覧請求の趣旨が株主に対する会社の情報提供を図ることにあるから広く解すべきところ、総勘定元帳及び補助簿のうち仕入れ取引に関する部分はこれに当たる。
ウ 「請求の理由を明らかにして」とは、株主による濫用的閲覧請求を防止し、株主の権利と会社の経営の保護のバランスを図るために求められていることから、濫用でないことが分かる程度に対象文書が特定でき、また拒絶事由の判断ができる程度に具体的に記載されていることを要する。
 本件で、Aが仕入先からリベートを受け取っている疑いがあり、Aの取締役としての損害賠償責任の有無を検討するためという理由を明らかにしている。これにより濫用的でないことがわかるし、上記具体性を満たしているといえる。
(3)したがってDの請求は認められそうである。
2 甲社の主張
 これに対し、甲者は同条2項の拒絶事由の存在を主張する。
(1) 3号
ア 拒絶が認められている趣旨は、会社の機密情報の漏洩を防ぎ、もって会社に損害が生ずることを防ぐことにある。
 そこで、「実質的に競争関係にある事業を営み」とは、製品や市場を考慮して、両者の事業が実質的に競合しているか、あるいは近い将来競業することが明らかである客観的事実を証明すれば足り、主観的意図の証明は要しない。
イ 本件で、たしかに、甲社とDが100%株主であり実質的な経営権を有する乙社はともにハンバーガーショップを営んでおり製品は競合している。しかし、甲社は関東地方のP県で事業を行っているに対し、乙社は近畿地方のQ県で行っており、市場の競合はない。また、甲社が近畿地方に出店する予定もなく、将来的な競合もない。
 したがって、「実質的に競争関係にある事業を営」んでいる客観的事実はない。
ウ よって同号の拒絶事由はない。
(2) 1号
ア 上記趣旨から、Dが「その権利の確保又は行使に関する調査以外の目的」を有している客観的事実を証明すればよい。
イ 本件で、Dは前述のようにAの取締役としての損害賠償責任の有無を検討するために必要と一応Aに伝えている。しかし、その後、甲社に対して興味を失い、Aがリベートを受け取っているかどうかは本当はどうでもいいと述べ、AにD保有株式の買い取りを重ねて求めている。すなわち、Dの請求の真の目的はAを脅迫し、請求撤回と引き換えに株式買取りを求めるという調査と関係ない不当なものである。
 そうすると、上記事実から、Dが取締役の責任追及という株主の「権利の…行使に関する調査以外の目的」を有していることが証明できる。
ウ よって同号の拒絶事由がある。
(3)  以上より、甲社の閲覧拒絶の主張は認められる。
設問2
1 小問(1)
  Cは本件決議1及び2の取消しの訴え(831条1項)を提起する。Cは甲社の「株主」であり、決議日である平成27年3月25日から「三箇月以内」であるから訴訟要件は満たす。
(1) 本件決議1について
ア まず、AがDの議決権を代理行使していることは、議決権の代理行使は一般に法律上認められていること(310条1項)、甲社の定款に代理人を限定する旨の定めもないことから、適法である。
イ Cを取締役から解任する旨の議案につきCが議決権を行使しているが、Cは「特別の利害関係を有する者」に当たり、同項831条1項3号の取消事由がないか。
 「特別の利害関係を有する者」とは、議決権行使により他の株主と共通しない特別の利益を得、又は不利益を免れる株主をいう。
 本件で、Cは反対票により取締役という強大な権限を有する地位の喪失を防ぐという他の株主と共通しない特別の利益を得るから、「特別の利害関係を有する者」に当たる。
 もっとも、A、B、Dの代理人としてのAの投票でC解任案は可決されており、「著しく不当な決議がされた」とはいえない。
 したがって取消事由にはならない。
ウ よって、本件決議1につき取消事由はない。
(2) 本件決議2について
ア Cの株主提案は314条1項に基づくものとして有効だが、議長Aは、Cが提案理由としてのAの不正なリベート受取について説明しようとしたところこれを打ち切っている。「決議の方法が法令…に違反」(831条1項1号)したといえないか。
(ア)314条は取締役が説明を要求された時に発生する説明義務についての規定であり、本件には適用できない。そこで議長Aに議事整理権(315条1項)の違反があったといえないか。
(イ)議事整理権の趣旨は、株主の経営参与の重要な機会たる株主総会を適正に運営し、もって株主の権利を確保することにある。他方で、時間的制約等も無視できない。
 そこで、株主総会を適正に運営する必要性が認められ、相当なものであれば、説明打ち切りも議事整理権の範囲内として認められると解する。
(ウ)本件株主総会に出席したのはA、B、Cのわずか三名であり、説明に時間的制約があったとはいえない。また、CはA解任議案の提案の理由としてAが違法行為をしていたことを説明しようとしており、その説明は議案に関連し、議決権行使の判断に必須のものである。にもかかわらず、AはCの説明は議案と関連がないとし制止し、直ちに裁決に移っている。
 したがって、上記必要性・相当性は認められないから、議事整理権の範囲内と認められない。
(エ)したがって、上記違法事由がある。
イ 裁量棄却(831条2項)の有無につき、Aの行為は自らの解任議案について自らの違法行為が曝露されることを防ぎ、株主が議決権行使に必要な情報を遮断し、強行採決に移るものであり、「違反する事実が重大」といえる。
 したがって裁量棄却はされない。
ウ 以上より、本件決議2は取り消される。
2 小問(2)
(1) Aに対する請求
ア 甲社の「株主」(847条2項)であるCは、株主代表訴訟(同条1項)によりCの任務懈怠責任(423条1項)を追及する。
イ 「任務を怠った」とは会社を名宛人とする法令に違反すること及び善管注意義務(360条、民法644条)、忠実義務(355条)に違反することをいうが、利益相反取引(356条1項2号3号)を行っていれば取締役会による承認(365条1項)の有無を問わずこれが推定されるので(423条3項柱書)、当該取引該当性を検討する。
(ア)直接取引(2号)
 利益相反取引が規制される趣旨は、取締役が会社の利益を犠牲にして自己又は第三者の利益を得る行為を規制し、取締役の忠実義務違反を防ぎ、もって会社ひいては株主への不測の損害を防止することにある。そして、実質的に利益が衝突するものは間接取引で検討すればいいから、同号の「ために」とは「契約当事者としての名義で」の意味と解する。
 本件で、連帯保証契約はあくまで甲社と丙銀行の間で行われているから、取締役Cが自己又は第三者の名義で行ったとはいえない。
 したがって直接取引には該当しない。
(イ)間接取引(3号)
 利益相反取引を規制する趣旨は前述のとおりだが、他方で、間接取引は外部からわかりにくく、取引に入った第三者の取引安全を確保する必要性もある。
 そこで、間接取引に当たるか否かは、外形的・客観的に見て会社の犠牲で取締役が利益を得る関係にあるかにより判断する。
 本件で、たしかに甲社が保証したのは甲社の取締役ではないGの債務である。しかし、Gが丙銀行から借り入れた800万円はD保有株式の買取資金であり、そして、それはAにD保有株式買取りを頼まれたことに起因する。そして、Aがこの買取りをGに頼んだのは、C解任の議案についてDが反対し否決されることを恐れ、買取りを対価としてDから議決権の代理権を得ることにある(本件契約(3))。そうすると、甲社がGの丙銀行に対する800万円の債務を連帯保証することは、AがDの議決権を得ることに繋がり、Aの利益となる。
 他方で、仮に甲社が保証料の支払を受けて連帯保証をする場合には保証料は60万円を下回らないものであったのに、甲社はGに保証料の支払いを求めないとされている(本件契約(2))。これは明らかに甲社の不利益といえ、実際、甲社は丙銀行に保証債務を800万円全額弁済し、Gが求償に応じないことで800万円の損失が生じ甲社の不利益となっている。
 そうすると、外形的・客観的に見て甲社の犠牲で取締役Aが利益を得ているといえるから、間接取引に当たる。
 したがってAが「任務を怠った」ことが推定され、さらにこれを否定するに足りる事情はない。
ウ 上記間接取引という任務懈怠「によって」、甲社に800万円の「損害」が生じている。
エ 以上より、Aは800万円の損害賠償責任を負う。
(2) Gに対する請求
 Gは、甲社からの求償に応じないという「過失」「によって」甲社に800万円の債務を負わせるという「損害」を与えているから、民法709条により不法行為に基づく同額の損害賠償責任を負う。
設問3
1 本件請求の効力を否定するBの主張が認められるか。174条が株式を相続により取得した者に対する株式売渡請求権を定款で定めることができるとしている趣旨が問題となる。
2 法が、株式は譲渡が自由であるのが原則であるとしながら(127条)株式に譲渡制限(107条1項1号)を設けることで非公開会社(2条5号参照)となることを認めているのは、会社が好ましくない者を株主とすることを防ぎ、もって会社や株主の利益を守る必要性を認めるべき場合があることによる。
 そうすると、174条の趣旨は、相続により好ましくない者が株主となることがあるから、この場合に会社に売渡請求を認めることで、上記利益保護を徹底することにある。
  したがって、請求が認められるのは、当該株主を排除するのが会社経営上会社や株主の利益となる場合に限られると解すべきである。
3 本件で、Cは、自らが代表取締役社長の地位にとどまりたいとの自己保身という不当な目的で、自らが議決権の過半数を確保するために最低限必要な401株についてのみ上記請求を行っている。そして、BはA及びCとの合意に基づき代表取締役社長として職務を行うことになっており、またそもそもBはもとから甲社株式を有していたのだから、Bを排除することが会社や株主の会社や株主の利益となるとはいえない。
4 したがって、本件請求は方の趣旨に反するから認められず、Bの主張が認められる。
以上

(4254字)

 

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設問1の競業は判例があったようであっさり否定すべきでなかったようです(とはいえマイナーなので出来なくても良かったと思います)。典型論点である競業の3号に引っ張られず見慣れぬ1号もきちんと検討できたのは良かったと思います。

設問2は否決決議の訴えの利益をすっかり忘れました……。特別利害関係人はこれでなるのか?と思いつつも他に書くことが思い浮かばなかったこと、論点として落としがちで気をつけろと散々言われていたので書く選択をとりました。とはいえ判例の結論はならない模様で、厚く論じるべきではなかったかもしれません。

また、利益相反を予想しすぎてかなり対策をしていたのですが、それに引っ張られて利益供与を丸々落とすという失態をやらかしました…。

本番でもあれ…ほんとに間接取引になるのか…?とは思ったのですが…。冷静になって考えてみると外形的客観的に判断するなら今回みたいに連なりあってめぐりめぐって結果的に取締役と会社の利益が衝突するような場合は外からわからないから当たらないだろうなぁと思います。実質的に判断するとかの規範立てたならあたりうるんだろうけど…。

利益供与は苦手な論点で落としがちだったのですが、今回は利益相反で決め打ちしてしまったのでそこまで頭が回りませんでした。まぁやむを得ないかな。

設問2は難問だったようですし、一応間接取引もあり得る筋のようで、致命傷となっていないことを期待します。

設問3は株式の数に突っ込めませんでしたが、現場思考問題なのでこれくらい書ければいいのでは?と思っています。

途中答案にならず最後まで書き切ることが会社法では課題だったので、その点は良かったです。

H30司法試験再現答案―行政法

設問1 小問(1)
1 D及びEに原告適格が認められるためには、「法律上の利益を有する者」(行政事件訴訟法9条1項)でなければならない。
 「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利もしくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう。当該処分を定めた行政法規が不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるに留めず、それが帰属する個々人の個別的利益としても保護する趣旨と解される場合には、このような利益も法律上保護された利益に含む。
 D及びEは処分の名宛人ではないから同条2項に示された事由を勘案する。
2 Dについて
(1) 本件許可処分の根拠法規は法10条1項である。法1条が墓地等の経営を公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障なく行われることを目的としていることから、こうした支障発生を防ぐために墓地経営を市長の許可にかからせていると考えられる。
  そして、条例は法10条の許可の手続等を定めたもので(条例1条)、「法令と目的を共通にする関係法令」であるからこれも参酌すると、条例3条は墓地経営者を原則として地方公共団体とし、例外的にも、宗教法人公益法人等しか認めていない。この制限の趣旨は、営利団体にも経営を認めると競争等により墓地の環境が悪化し、結果として公衆衛生等の支障が生じるからであると考えられる。そうすると、法はDが主張する墓地の経営上の公益性と安定性も保護する趣旨であると解される。
(2) もっとも、B市はこれが個別的利益としては保護されていないと反論する。被侵害利益の内容・性質を検討すると、新たな墓地ができることによる経営悪化、墓地環境の悪化という因果関係は観念的であり、利益の要保護性は高くない。そして、法・条例は経営安定のための距離制限や規模制限など具体的な基準を何ら設けておらず、近くの墓地の経営上の利益が個別的利益として保護されているとまではいえない。
(3) よって、本件土地から300メートル離れたDの墓地の経営上の利益が個別的に保護されているとはいえない。
(4) 以上より、Dは「法律上の利益を有する者」に当たらず、原告適格を有しない。
3 Eについて
(1) 前述のように法は公衆衛生の維持を目的としている。
  そして、墓地は水を汚染するおそれのある死体等を埋葬する墳墓を設ける区域であること(法2条5項)、条例13条2項、14条1項(2)などが飲料水の汚染や雨水の停滞を防止する旨定めていることから、特に飲料水の安全等の周辺住民の生活及び衛生を保護する趣旨と解される。
(2) そしてこれが個別的利益として保護されているかにつき、汚染等のおそれは墓地に近づけば近づくほど上昇する性質を有する。そして、墓地経営許可を受けるには墓地の周囲100メートルの区域の状況の図面提出が義務付けられていること(条例9条2項(4))、飲料水を消費する住宅や障害福祉サービスを行う施設から100メートル以上離れていなければならないとされていることから(条例13条1項)、法は、墓地から100メートル以内の住宅やこれに準じる施設の飲料水等の生活及び衛生の安全を個別的利益として保護していると解される。
(3) 本件で、Eが経営する本件事業所は本件土地から約80メートル離れたところにあり、上記障害福祉サービスを行う施設に該当する。そして、定員に近い利用者が日常的に利用し、数日間連続して入所する利用者もいたから住居に準じる施設といえるから、飲料水の安全等の生活及び衛生の安全を確保する必要がある。したがって、Eの本件事業所の同安全は個別的利益よして保護されている。
(4) 以上より、Eは「法律上の利益を有する者」に当たるから、原告適格を有する。
設問1 小問(2)
1 条例13条1項違反
(1) Eの主張
ア Eは、本件墓地はEの施設から100メートル以上離れておらず本件許可処分は上記規定に反し違法と主張する。
イ まず、本件許可処分は、法10条1項が許可事由につき何ら条件を定めていないこと、条例13条1項ただし書が「認めるとき」という不確定概念を用いていること、及び、墓地の性質や周辺の地形や住環境等の専門的・政策的判断を要する処分であることから、市長に許可をするについての広い要件裁量が認められる。
 そこで、①判断の基礎となる重要な事実に誤認があるか、②考慮不尽・他事考慮等により著しく妥当性を欠く判断がなされた場合には、裁量の逸脱濫用として許可処分は違法となる(行訴法30条)。
ウ 本件で、まず形式的に本件墓地は施設から100メートル以上離れていない。そこでただし書の事由を検討するに、周辺住民が生活環境や衛生環境の悪化を懸念し、反対運動が激しくなっていることから公衆衛生の観点から支障がないとはいえない。
 したがって、これらの事情を考慮しなかった考慮不尽がある。
エ よって裁量の逸脱濫用により違法であると主張する。
(2) B市の反論
ア B市は、本件事業所はDとEが本件墓地の経営許可阻止の目的で意図的に本件墓地から100メートル以内にあるD所有土地に設置したものだから、これを考慮した結果裁量の逸脱濫用はないと反論する。
 これにつき、このような主観的意図を許可処分につき考慮してよいか問題となりうるが、距離制限は墓地が後から設置されたことによる飲料水汚染のおそれを排除すること等に目的があるから、墓地の許可がされだろうことを知りながらあえて制限内に来た者の利益は保護の必要がない。したがって、考慮してよい。
イ そして、たしかに周辺住民の反対運動はあるが、周辺住民は本件土地から100メートルを超える場所に居住するものであり、その生活環境は個別的利益として保護されていないから、特に重視しなくても考慮不尽とはいえない。
ウ よって、適法であると反論をする。
2 条例3条1項違反
(1) Eの主張
ア Eは、本件墓地の実質的な経営者は宗教法人であるAでなく株式会社であるCだから、条例3条各号に該当せず、B市は法の適用を誤っており違法と主張する。
イ 法が経営主体を宗教法人等に限定している趣旨は、墓地経営は市民の宗教感情に適合する必要があり(法1条1項、条例13条1項)公益性を要するから、利益を目的とする株式会社等の経営になじまないことにある。
 そこで、所有権で判断するのではなく、実質的に利益を目的とする主体が経営しているか否かを考慮する。
ウ 本件で、たしかに本件墓地の所有権はAにある。しかし、Cが用地買収や造成工事に必要な費用を全額無利息で融資するという好条件でAに提案を持ちかけており、実質的な経営主体は利益を目的とする株式会社Cである。
エ したがって、上記法令の適用の違反があり、違法である。
(2) B市の反論
ア たしかに、金銭的負担は全てCが行っているが、あくまで経営しているのは宗教法人であるAである。したがって実質的な経営者は「宗教法人」であるから、条例3条に違反するものではない。
イ また、B市は、Eの主張は「自己の法律上の利益に関係のない違法を理由と」する取消しの訴えであり、行訴法10条1項の主張制限にかかると反論する。
 取消訴訟は原告の権利救済を目的とするから、それ以外の違法は主張できないとすることにある。処分の名宛人でない第三者の場合は、原告適格を基礎付ける規定についての違法のみ主張できる。
   Eの原告適格は飲料水の安全にかかる距離制限についての利益に基礎づけられているから、上記主張は主張制限にかかり許されない。
設問2
1 (ア)について
(1) Aの主張
  不許可処分のための条例14条1項の構造設備の要件につき、「認めるとき」という文言を用いていること、設備は墓地の規模や周辺の地形等の専門的判断を要することから、市長の要件裁量が認められる。したがって、前述の①又は②の事由があれば裁量の逸脱濫用で違法となる。 
 本件で、本件墓地の設置にあたっては植栽を行うなど、周辺の生活環境と調和するよう十分な配慮がなされている(条例14条2項)。したがって、「市民の宗教感情に適合」するといえるから、この配慮が十分になされたことを考慮しなかった不許可処分は考慮不尽による裁量の逸脱濫用があり違法である。
(2) B市の反論
 たしかに植栽はなされているが、それは調和の配慮の一つにすぎず、実際には周辺住民の反対運動が激しくなっているのだから、「市民の宗教的感情に適合し」ているとは到底認められない。
 したがって、処分は考慮すべき事項を考慮してされており、裁量の逸脱濫用はなく適法である。
2 (イ)について
(1) Aの主張
 法10条1項に基づく許可処分・不許可処分をするに当たっては、法が保護している利益である国民の宗教感情や公衆衛生等のみを考慮すべきであり、法が個別的に保護していない墓地の経営上の利益を考慮するのは、他事考慮による裁量の逸脱濫用であり違法である。
(2) B市の反論
 前述のように、法は一定の距離にある他の墓地の経営上の利益を個別的には保護していないが、一般的公益としては保護しており、考慮すべきでない事項とはいえない。そして、B市内には複数の墓地があるが、いずれも供給過剰で空き区画が目立ち、本件墓地の経営が始まればDの墓地のような小規模な墓地は経営が破綻する可能性もあるところ、これを保護する必要性が認められる。
 したがって、考慮すべき事項を考慮して行った処分であり、裁量の逸脱濫用はなく適法である。
以上
(3771字)

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墓埋法の原告適格は答練でやったことがあったのでラッキーでした。その時は周辺住民の健康や生活環境が法律上保護されているという話だったので、おそらく経営上の利益は個別的に保護されているとはいえないだろうと考えました。とはいえ2つの利益を別途検討しなければならないので難しい問題だったと思います。

実体違法の問題は行政法では見慣れない主張反論形式で、しかも異なる2つの立場からの主張の検討が必要で難しかったです。

今年は個別法の分量は少なく読み解きは比較的容易でしたが、法律論の組み立てが難しい問題でした。行政法は一応得意科目だと思うので良い評価が得られるといいのですが。

 

 

 

 

H30司法試験再現答案―国際私法

第1問

設問1
1 まずDC間の親子関係の成否の検討に先立ち本件遺産分割の準拠法を検討する。本件遺産分割は被相続人に属する遺産を各相続人間で分割する手続であり、相続の問題に法性決定できるから、法の適用に関する通則法(以下略す。)36条による。
同条は被相続人の本国法を連結としているところ、この趣旨は、相続は被相続人に最も密接な関係を有する本国法によるべきことにある。被相続人Dの本国法は甲国法であるから、甲国民法⑥により、Cが相続人となるにはDの嫡出子でなければならない。
2 では、DC間の親子関係の存否の問題も、相続と関連する問題として甲国民法を適用し、同⑤によりCは嫡出子の身分を獲得するとすべきか。あるいは、甲国国際私法を適用して同②により婚姻の効力の準拠法によるとすべきか。
 たしかに、両者は密接関連性を有する問題であり、前者が後者のいわゆる先決問題といえるから、両者に同一の国の法あるいはその国の国際私法を適用すべきとも思える。しかし、異なる生活関係を分解し、各々について準拠法を決定するのが国際私法の立場であるから、DC間の親子関係の存否の問題は、別途法廷地の国際私法(通則法)により準拠法を決定するべきである。
3 そこで親子関係の存否の準拠法を考えるに、親子関係は婚姻から生じることが多いから24条1項によるべきともいえる。しかし、婚姻しても子がいるとは限らないし、婚姻以外の認知等によっても親子関係は生じうるし、同条は子の利益に一切配慮していないから妥当でない。また、親子間の法律関係として32条によるべきとも思えるが、これは親権者の決定等親子関係の権利義務についての規定であり、存否の判断には適当でない。また、28条はそれにより嫡出子となる子についての規定である。本件は嫡出でない子に親子関係が成立するか否かの問題なのだから、29条によるべきである。
 同条は1項と2項で選択的連結を採用している。この趣旨は、なるべく認知が成立して親子関係を成立させ、子の福祉を実現する点にある。また、1項後段等のセーフガード条項によりさらに子の福祉を図っている。
 本件は認知によらない母との親子関係の成立だから、1項により子の出生当時における母の本国法である甲国法が準拠法となる。甲国民法⑤により、前婚の子であるCはDAの後婚によりDの嫡出子の身分を獲得する。
4 以上より、DC間に親子関係が成立している。
設問2
1 甲国民法の改正により同⑤により発生した親族関係は消滅するとされているから、これによると、CはDの嫡出子としての身分を失い、Dの相続人となれない結果となる。
 しかし、本件は甲国法という「外国法によるべき場合」であるところ、この結果は公序則の発動(42条)により無効とならないか。
2 公序則の趣旨は、異質なルールを日本で適用することで、日本の基本的法秩序が破壊されるような結果が生じることを防止することにある。他方で、国際私法は原則として法の適用結果には関知しないし、公序を乱用すれば準拠法決定過程が無意味となるから、その発動には慎重でなければならない。
 そこで、①外国法適用結果の異常性と②内国との関連性の相関関係により発動の有無を決する。
3 ①につき、嫡出子としての身分は、相続権等の基礎となるだけでなく、憲法13条後段により保障される人格権とも関連する重要なものであるところ、一度成立したこのような重要な地位を法改正により事後的に剥奪するのは、同人を極めて不安定な地位に置くものである。したがって、適用結果は異常であるといえる。
②につき、Cは日本生まれで日本に居住する日本人であり、また、Cが相続するはずのDの財産も日本に残されている。したがって、内国関連性は強い。
以上の相関関係から、公序則を発動させるべきである。
4 公序即発動後の処理により、法改正による嫡出子身分の剥奪という結果のみを排除すればよいから、新たな法の適用を考慮する必要はない。
5 以上から、CはDの相続人となる。
設問3
1 Cの売却による持分の移転の準拠法が問題となる。
 たしかに、持分権は遺産分割の前提状態における権利であるから、相続財産の帰趨の問題として36条を適用すべきとも思える。しかし、持分権の移転においてそれは間接的関係でしかないし、直接的には不動産の物権変動すなわち権利の得喪が問題となっている。そして、登記請求権は「登記をすべき権利」(13条1項)の得喪の問題である。
 したがって、登記をすべき権利の得喪の問題として、13条2項を適用すべきである。
2 同条は原因事実完成当時の目的物の所在地法を連結点とする(不変更主義)。この趣旨は、それが当該物権変動等と最も密接な関係を有することにある。
 本件で、持分売却時の所在地法は日本法となるから、日本法が準拠法となる。
 民法は、遺産分割前の相続財産は共同相続人の共有とし、自己の持分については自由な処分を認めている(民法206条)。したがって、Cが他の共同相続人の同意を得ずに自己の持分をEに売却し、持分移転登記をしたことは有効であり、無効原因はない。
3 よって、Cの請求は認められない。
以上

第2問

設問1 小問1
1 まず、本件では管轄の合意(民事訴訟法(以下略す。)3条の7第1項)はない。
2 次に一般管轄(3条の2第1項)につき、「人」であるYの住所は甲国にあり、日本国内にはないから認められない。
3 (1) そこで特別管轄(3条の3)を検討する。同条の趣旨は、国際裁判管轄は日本の裁判所が当該事件に付き裁判所が裁判をする権利を有するか否かという問題だから、各号で、当事者間の公平、証拠の所在、応訴の負担などを考慮して裁判管轄を認めるべき場合を規定することにある。
3号につき、本件訴えは絵画の代金の返還を求める「財産権上の訴え」(上段)であるが、「金銭の支払を請求するものである場合」であるところ、Yは日本に財産を有していないから、「差し押さえることのできる被告の財産が日本国内にある」とはいえない。
4号につき、Yは日本に営業所を有しない(下段)。
5号につき、Yは甲国で個人で事業を営んでおり、日本への渡航歴もなく、「日本において事業を行う者(上段)に当たらない。
1号につき、「不当利得に係る請求」(上段)であるが、「債務の履行地」は甲国であって日本ではないし、「契約において選択された地の法」(下段)はない。
したがって同条による管轄は認められない
(2) もっとも、3条の4第1項により管轄が認められないか。
 Xは趣味で絵画の収集をしている個人であり「消費者」にあたる。Yは自己の事業のために本件売買契約の当事者となっている個人であり「事業者」にあたる。したがって、本件売買契約は「消費者契約」にあたる。そして、本件訴えは消費者Xの事業者Yに対する訴えであるところ、Xの住所は一貫して日本にあるから、同条の要件を満たす。
 したがって、同項により日本の裁判所に管轄が認められる。
4 もっとも、特別の事情があれば訴えを却下することができる(3条の9)。
本件売買契約の締結、代金の支払い、本件絵画の引渡し全て甲国で行われていること、本件絵画は甲国で著名な画家Pの作品とされており、鑑定等は甲国で行うことが適していることから証拠は甲国に存在しているといえる。また、Xは甲国に渡航しているのに対し、Yは日本に営業所等を有しない他、渡航歴すらないのだから、応訴における被告Yの負担は大きい。
 したがって、同条により却下できる。
5 以上より、日本の裁判所は国際裁判管轄を有するが、特別の事情ありとして却下できると考える。
設問1  小問2
1 契約は「法律行為」(法の適用に関する通則法(以下、「法」という。)7条)であるから、本件売買契約の有効性すなわち成立の準拠法は法7条以下による。
(1) 法7条は当事者間による準拠法の選択を認める。この趣旨は、私的自治を国際私法に反映させることにある。選択は明示・黙示を問わないが、現実の意思であることを要する。
 本件売買契約で準拠法に関する明示の定めはないほか、特定の国の法の条文への言及もなく、特定の国の法に有効な法律用語も使われていないから、黙示の選択もない。したがって現実の意思による選択はなく、同条の適用はない。
(2) 選択がない場合、法8条1項により契約の最密接関係地法が準拠法となる。そして、その際は「特徴的な給付」を行う当事者の常居所地法が最密接関係地法と推定される(同条2項)。この趣旨は、一般に契約においては一方当事者が職業的・継続的に多数の取引を行うことが多く、それらの契約の準拠法を揃えるべきことにある。そして、それは通常金銭の対価としての物やサービスの供給にある。したがって、「特徴的な給付」とは、金銭給付の対価としての反対給付をいうと解する。
 本件で、金銭給付を行っているのはXであり、その対価としての反対給付である本件絵画の引渡しを行っているのはYだから、「特徴的な給付」を行っているのはYである。そして、Yの常居所地法は甲国法だから、これが最密接関係地法と推定される。
 本件で、前述のように契約の締結・金銭支払・引渡しが全て甲国で行われていることから、これを覆す事情はない。
(3) したがって、甲国法が最密接関係地法となる。
2 (1) もっとも、本件売買契約は消費者契約であるから、法8条は排除され、契約の成立及び効力は消費者Xの常居所地法である日本法が準拠法となるのではないか(法11条2項)。同項の趣旨は、消費者は事業者に比して知識・経験等が不足し情報力・交渉力が低く不利益を受けやすいから、これを保護することにある。
(2) もっとも、同条6項により2項の適用は排除されないか。
 1号及び2号本文はいわゆる能動的消費者につき消費者保護の特例を排除するとする。この趣旨は、能動的消費者の準拠法を逐一確認することは困難であることから、国内的にのみ活動している事業者の準拠法に関する予見可能性を確保することにある。
本件で、Xは事業所が所在する甲国に赴き契約を締結し、また、甲国で履行を受けているから、これに当たる。
(3) もっとも、この場合でも、ただし書は契約締結や債務履行の「勧誘」をそこで受けていた場合は除くとしている。この趣旨は、自ら勧誘した者の予見可能性を保護する必要がないことにあるから、「勧誘」とは、積極的かつ具体的な働きかけでなければならない。
 本件で、Xは自らの意思でYの店を訪れ、価格交渉を申し出ているのだから、Yから何らの働きかけもも受けておらず、「勧誘」はない。
 したがってただし書の適用はない。
3 以上から、法11条6項1号・2号本文により同条2項の適用は排除されるから、法8条により、甲国法が準拠法となる。
設問2
1 本件訴えは、本件絵画の所有権の確認を請求するものであるから、「動産…に関する物権」(法13条1項)の問題であり、同項により準拠法が決定される。
2 同項が目的物の所在地法を連結点とする変更主義をとっている趣旨は、物権は物に対する支配的権利であるから、物の実際の所在地が適当であること、また、物権は所在地の公益と密接な関係を有していることによる。訴えにおいては、この「所在地」は、基準の明確化の観点、そして既判力はその時点の法律関係に生じると考えられていることから、口頭弁論終結時を基準とするのが原則である。
 もっとも、その時点でどの国にも属さない場所にある場合などで運送されている場合は、目的物の仕向地を「所在地」とすべきである。なぜなら、仕向地はその物の将来の所在地であり、物と最も密接な関係を有するといえるからである。
3 本件で、口頭弁論終結時において本件絵画は公海上の航行中の船舶というどの国にも属さない場所にある。そこで仕向地を検討すると、これは日本である。
4 したがって、日本が本件絵画の「所在地」となるから、日本法が準拠法となる。
以上

 

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第1問について

設問1の法性決定はこれで正しいか不明です…。ただ色々検討したので合っていれば結構点がつくと思います。甲国国際私法があったのは法廷地国際私法説について述べさせる意図だと思われます。

設問2は友達は公序で検討しておらず、初めて見た問題なのでこれで正しいか不明です。

設問3は判例があり、財産の帰属関係と物権変動で準拠法を分けるべきでした。設問1で生活関係で分けろとしながらここでは分けなかったのは矛盾ですね…。

 

第2問について

設問1はおそらくこれで正しいだろうと思います。国際裁判管轄を有するか、という問いではなかったので特別な事情による却下は検討してよかったと思います。特徴的給付や消費者の特例については直前に聴いた講座が役に立ちました。

設問2は薄い気がしますがこんなもんではないでしょうか……。

 

 

H30司法試験再現答案―刑事訴訟法

設問1
1 捜査①
(1) 本件捜査が「強制の処分」(刑事訴訟法(以下略す。)197条1項但書)に該当すれば検証令状(218条1項)を要するところ、令状なく行われている。そこで「強制の処分」に当たれば令状主義(同項、憲法35条1項)に反し違法となるため問題となる。
ア 法が「強制の処分」につき厳格な手続を定めているのは、相手方の明示又は黙示の意思に反して憲法が保障する住居・財産等の重要な権利を制約することにある。そこで、相手方の意思を制圧し、憲法が保障する重要な法的権利を制約する処分をいうと解する。
イ 本件で、甲が公権力により証拠収集の目的で無断でその容貌・姿態を撮影されることを許可するとは考えられないため、捜査①は甲の黙示の意思に反しており、その意思を制圧している。
 捜査①は、憲法13条後段によって保障される、甲の公権力によってみだりにその容貌・姿態を撮影されない自由という重要な法的権利を制約しているとも思える。しかし、撮影が行われたのは公道という不特定多数の者が往来する公の場所に面した事務所の外であり、他人からその容貌・姿態を観察されることを受忍せざるを得ない場所である。しかも、撮影はわずか20秒間にとどまる。
 そうすると、憲法が保障する重要な法的権利が制約されているとまではいえない。
ウ したがって、本件捜査は「強制の処分」には該当しない。
(2) そうであるとしても上記自由は制約されうるから、捜査比例の原則(197条1項本文)の下、任意捜査の限界を超えないものでなければならない。すなわち、当該捜査を行う必要性・緊急性やそれにより制約される利益を考慮し、具体的状況の下相当といえなければ違法である。
ア 捜査の必要性・緊急性
 本件の被疑事実の詐欺罪(刑法246条1項)は最大で懲役10年が科されるし、被害額も100万円と少なくなく、重大犯罪といえる。そして、Vの証言はステッカーについて詳細に至り信用性が高いところ、甲はステッカーと領収書に示されたA工務店の事務所に出入りしており、Vの証言と一致する中肉中背の男性であることからも、甲の嫌疑は濃厚である。
 そして、Vに甲の犯人性の同定をさせるために甲の画像が必要であるところ、事務所の窓にはブラインドカーテンが下ろされ、両隣には建物が接しているため公道から事務所内を見ることができないため、外にいるところを撮影しなければならず、本件捜査の必要性が高い。
 逮捕されれば科刑が重くなりうることから逃亡のおそれがあること、工具箱等の証拠物は容易に隠滅できることから、早急に犯人を特定する緊急性もある。
 したがって、捜査①を行う必要性・緊急性は高い。
イ 制約される利益
 たしかに、動画の撮影は動きを含めた画像を保存するものであり、静止画である写真撮影に比して本件自由の制約の度合いは高い。しかし、前述のように他人に容貌・姿態の観察を受忍せざるを得ない場所での撮影であること、わずか20秒間甲の姿を撮影しただけで、プライバシーに係る言動が撮影されたわけでないことからすれば、制約は極めて微弱である。
ウ よって、具体的状況の下相当といえる。
(3) 以上より、捜査①は任意捜査の限界を超えず適法である。
2 捜査②
(1) 捜査①同様「強制の処分」に該当すれば検証令状を要するため検討する。
ア 本件で、事務所という一定のプライバシーが及ぶ場所の内部の様子を公権力によって無断で撮影されることを甲が許可するとは考えられないため、捜査②は甲の黙示の意思に反しており、その意思を制圧している。
 本件では、甲の公権力によって私的領域に侵入されない自由(憲法35条1項)の制約が問題となる。たしかに、事務所は住居類似の私的領域といえプライバシーが及んでおり、その内部を撮影されることは同自由を制約しているといいうる。
 しかし、撮影が行われたのは公道ではないにせよ、マンションの住人多数が往来する2階通路の小窓であり、そこから見える範囲の撮影にとどまること、撮影されたのは工具箱のみであることからすると、上記自由はそこまで重要とまではいえない。
イ したがって「強制の処分」には当たらない。
(2) 任意処分の限界を超えないか。
ア 捜査の必要性・緊急性
 本件で、1週間の監視により本件事務所に出入りしているのは甲のみと判明し、甲がA工務店の代表甲である可能性が高く、嫌疑はより濃厚となっている。さらに、甲が持っている赤色の工具箱にVの証言通りの「A工務店」と書かれたステッカーが貼られていれば犯人性を推認する有力な証拠となるところ、ステッカーが小さく、甲が持ち歩いている状態ではその有無を確認することが困難だった。そのため、たしかに、工具箱を撮影する必要性は認められる。
 しかし、甲が本件事件から1週間経過しても工具箱を処分せず持ち歩いていることからすると、監視を延長すれば、甲が工具箱を再び持ち歩き、休憩のため置くなどして撮影できる機会は十分にあったと考えられる。そうすると、あえて事務所内を撮影する捜査②を行う必要性はそこまで高いとはいえない。
 また、本件事件から1週間経過しても甲が逃亡せず事務所に出入りしていること、証拠物となりうる工具箱を隠滅していないことから、緊急性も低い。
 したがって、捜査②を行う必要性・緊急性は高いとはいえない。
イ 制約される利益
 たしかに、事務所に及ぶプライバシーは住居ほど高いとはいえないし、撮影はわずか5秒であり、対象も机上に工具箱が置かれている様子のみだから、継続的ないし網羅的に事務所内部の様子を把握するものではない。また、事務所内に警察官が侵入しているわけでもない。
 しかし、事務所も人が生活する空間という意味では私的領域といえ、その領域を撮影していることから侵入が認められる。そして、マンション2階の小窓から望遠レンズを用いて内部を見られることは想定しづらく、甲の姿が写っていないこともたまたまだから、上記自由の制約は比較的強い。
ウ したがって、具体的状況の下相当とはいえない。
(3) よって、捜査②は、任意捜査の限界を超え違法である。

設問2
1 本件メモ
(1) 本件メモは伝聞証拠(320条1項)に当たり証拠能力が否定されないか。
ア 伝聞証拠の証拠能力が原則として否定されるのは、知覚・記憶・表現・叙述の各過程で誤りが混入しやすいにもかかわらず、反対尋問等により吟味できず、その正確性が担保できないことによる。したがって、伝聞証拠とは、公判廷外の供述を内容とする供述又は書面で、要証事実との関係で相対的にその内容の真実性が問題となるものをいう。
 要証事実(立証事項)とは、その証拠から最終的に証明しうる事実をいい、一方当事者である検察官の主張する立証趣旨や争点を参考にして証拠ごとに決定する。
イ 本件メモの立証趣旨は「甲が、平成30年1月10日、Vに対し、本件メモに記載された内容の文言を申し向けたこと」とされている。本件で甲が「V方に行ったことはありません」と述べて犯行を否認しており、甲の犯人性が争点となっているところ、上記事実は甲の詐欺罪の実行行為である「欺」く行為の存在を示すものであり、その犯人性を肯定する事情となるから、要証事実と見ることができる。
 そして、その要証事実との関係では、甲がVに発言した内容をVが正確に知覚・記憶しそれ通りに表現・叙述しているか否かを吟味する必要がある。
ウ したがって、本件メモは要証事実との関係でその内容の真実性が問題となるから、伝聞証拠に当たる。
(2) 伝聞証拠に当たる場合でも伝聞例外(321条以下)に当たれば例外的に証拠能力が認められるため検討する。
ア 本件で、弁護人は本件メモにつき不同意としている(326条)。
イ そこで321条1項3号の書面に当たらないか。
(ア)本件メモは「被告人以外の者」であるVが「作成した供述書」(同項柱書)である。
(イ)「供述することができ」ないとは、列挙された事由等を理由として供述不能が一定期間継続し、供述が実質的に不可能あるいは著しく困難であるこという。
 本件で、Vは脳梗塞により意識不明となり、回復の見込みはないとされている。そして、仮に回復したとしても記憶障害により取調べは不可能とされているから、Vは供述が実質的に不可能であり、「精神若しくは身体の故障」により「供述することができ」ないといえる。
(ウ)「供述が犯罪事実の存否の証明に欠くことができず」とは、それが唯一の証拠であることは要さず、犯罪事実の立証に重要で不可欠といえればよい。
 本件で、甲は被疑事実を否認しているところ、本件メモは甲の詐欺罪の実行行為の存在を立証するものであり、これに当たる。
(エ)「供述が特に信用すべき情況の下にされた」か否かは供述時の外部的事情から判断する。
 本件メモは記憶が依然明確といえる事件当日に書かれている。そして、長男という信頼できる関係にあるWの発言を受けてその場で書かれており、さらにその内容は当夜VがWに話した内容と同じであった。そうするとこれに当たる。
(オ)よって、同号の伝聞例外の要件を満たす。
(3) 以上より、本件メモの証拠能力は認められる。
2 本件領収書
(1) 「本件領収書の存在と内容」を要証事実とする場合
ア 伝聞証拠に当たらないか。
イ 本件領収書の指紋・印影が甲の指紋・認め印の印影と合致していること、領収書の日付と事件の日付が一致していること、Vの名前が記されていることからすると、本件領収書が偽造であることは考えがたく、本件領収書が甲により作成されVに交付されたことが認定できる。
 そして、領収書は金銭の交付に対して交付されるものであるから、経験則上、金銭の授受がなければ領収書を交付することはおよそ考えられない。
 そうすると、本件領収書が存在すること自体が、甲V間において金銭の授受があったことを推認させる。
 そして、その推認過程においては本件領収書に記載された内容の真実性は問題とならない。
ウ したがって、「本件領収書の存在と内容」を要証事実とした場合、本件領収書は伝聞証拠には当たらないから、証拠能力が認められる。
(2) 「甲が平成30年1月10日にVから屋根裏工事代金として100万円を受け取ったこと」を要証事実とする場合
ア 要証事実を検察官主張の立証趣旨同様に上記のように解すると、甲の詐欺罪の実行行為の存在が証明できる。そして、本件領収書の記載は甲の知覚等を経て叙述されたものであるところ、真実その日時に交付されたのか、目的は屋根裏工事であったのか、金額は100万円であったのか、といった記載内容の真実性が問題となる。
 したがって、伝聞証拠に当たる。
イ 伝聞例外に当たらないか。本件領収書は「被告人」である甲「が作成した供述書」だから、322条1項を検討する。
 「供述が被告人に不利益な事実の承認を内容とする」につき、本件領収書の記載は被告人甲の詐欺罪の実行行為の存在を承認するものだから、これに当たる。
 「任意にされたものであると認めるとき」につき、甲は誰かから要請を受けて本件領収書を作成したのではなく、自ら作成し交付したのだから、認められる。
 したがって同項の要件を満たす。
ウ 以上より、上記事実を要証事実とした場合でも、証拠能力が認められる。
以上
(4505字)

 

 

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刑訴は以前書いたように好きな科目で、そして(客観的評価はどうであれ)本番でも自分として満足がいく答案を書ききれたので、自己満足ですが再現答案を掲載します。5%ほど盛っていますが概ね本番通りだと思います。

 

コメントなど

全体

捜査法から強制処分該当性と任意捜査の限界、証拠法から伝聞・非伝聞の区別と伝聞例外、と非常にオーソドックスで真っ向勝負の問題でした。

設問1はTKC・辰巳両模試で類似の問題が出ましたし、設問2も予想されていた分野なので皆のレベルは高いのかなぁと思っています。それでも、というかそれだけに、結構差が出る問題であるとも思うのですが。

 

設問1について

強制処分は多くの受験生がいわゆる井上説の規範を立てると思いましたが、最高裁判例GPS判決)が出ている以上それに従った規範にしました。

以前は平成27年の採点実感の指摘を踏まえて理由付けをもう少し書いていましたが、最高裁の見解を書く以上不要だろうと考え理由付けは短くしました(むしろ無くても良かったと思いますが)。

また、捜査②はプライバシー権にするか迷いましたが、やはりここはGPS判決を踏まえて35条の公権力によって私的領域に侵入されない自由とすることが求められているだろうと考えました(合っているかわかりませんが…)。論述も判例の表現を意識することを心がけました。事務所と住居の違いに気づけたのも良かったと思います(現場での思いつきは本当は良くないんですけど……)。

 

再現答案を作るにあたり問題文を読み返してみて思ったのですが、捜査①ではVが犯人の顔はよく覚えていないと言っている以上同定確認のための捜査の必要性を高いとしてしまったのはマズかったかな……と思います。中肉中背というのも特徴的な見た目ではないですし、若干苦しい。

捜査②は強制処分で切るか迷いましたが、捜査が進展して必要性と緊急性を否定する事情が増えていてこれを使いたかったことから否定することにしました。

そしてさらに捜査①との違いを出すために違法と結論づけたわけですが、強制処分としての権利制約を否定しつつ任意捜査としての制約は高いとしたので、説得力ある書き分けができたかは少し自信がありません(矛盾していると捉えられないといいのですが……)。

 

設問2について

辰巳の福田先生の講座を受講していたのですが、試験委員に伝聞の専門家である堀江先生が就任されたということと、昨年弾劾証拠という若干特殊な分野が出たことから伝聞が正面から聞かれると予想されていました。さらにヤマあての直前フォロー答練では領収書の証拠能力がズバリ出ました。福田先生には本当に感謝です(ネット受講だったのでお会いしたことはありませんが)。

堀江先生はリークエの証拠法の部分を担当されています。この部分の説明は非常に丁寧でわかりやすく、今回の直球の出題からしても先生はものすごく素直でいい人なんじゃないだろうかと勝手に考えていました(そういえば京大の友人が堀江先生大好きでしたねぇ…)。

前回の記事で書いたように実況見分・犯行計画メモとかが苦手な僕は前日に友達とこれについて議論していたので、問題文を開いたときは正直ニンマリしてしまいました。

 

領収書について、あとから友達に言われて気づいたのですが作成者が甲であることとVに交付されたことは証拠上認定できるとされているんですよね…。そうすると指紋とかの事情をあえて使う必要はないわけで、どういうこと?と今でもわかりません。

領収書について323条3号の特信書面の検討はありえますが(書いた人が多いみたいですが)、今回の領収書みたいに機械的に提供されず個別的に作成される物の場合該当しないとするのが通説だったと思います。一応その旨触れようか思いましたが時間がなかったので省略しました。

 

 

設問1は4頁半、設問2は3頁ちょっとでほぼ8頁使い切るくらい書きました。刑法はともかく刑訴でここまで書いたのは初めてですし、設問2で若干走ったものの書きたいことはほぼ書ききれたので満足しています。これで間違っていてもしゃーないと思えます。

他の科目も刑訴みたいに実力を出し切れたと思えれば気持ちいいのでしょうが、なかなかそうはいきませんね……。

 

他の科目は気が向いたらアップします笑。

司法試験合格(予定)体験記②

【中日】

朝9時過ぎに起きると大学へ向かいました。昨年は一日中ホテルで勉強してたのですがあの空間にずっと一人でいて気が狂いそうだったので、今年は友人がいる慣れた環境で勉強したほうが精神衛生上いいだろうと考えたからです。

若干友達と終わった試験の話などしてしまい安堵したり焦ったりしながらも、気を取り直して短答と刑事系に気持ちを向けました。短答がとにかく怖かったので刑法についてはだいたい中日に終わらせるようにしました。

それから時間がなくて消化できていなかった直前フォロー答練をザッと眺めました。刑法の不作為犯については結果的にドンピシャでした。不作為は26年の過去問もそうですが時間の経過とともに刻々と情況が変わっていくためどの段階で何の義務を認定するかが難しく苦手意識がありました。

刑訴も領収書がドンピシャでした。犯行計画メモや領収書についてはこの段階になっても自分できちんと理解しておらず、友達に色々質問したり、問題集を漁ったり、有明に戻る電車の中でもそこを重点的に確認していました。この努力が報われて良かったです。

刑事系は中日に期待する人が多いと思うんですが、2日間の疲れと、都合5日程度離れていたことから案外充実した勉強はできませんでした。そもそもわからないことをこの段階まで残しておくな、という感じですし……(結果的に出題されてよかったわけですが)。

早めに引き上げる予定でしたが中々ノルマが終わらず、結局22時に大学を出て有明に戻り、風呂に入って寝ました。

 

【4日目】

試験前

また緊張してしまい寝付けなかったのか8時に目が覚める。刑事系は苦手意識は無かったですが、論文最終日というだからでしょうか。ただ「今日は書くぞ〜」という感じでめっちゃアドレナリンが出ていたように思います。

 

刑法

問題文を開いて思わず声が出そうになりました。小問形式……?憲法に続きお前もか……。

刑法は近年はとにかくスピード勝負でいかに速くかを肝に銘じて挑む予定だったので、肩透かしを食らった感じです。おそらく、昨年が量が多すぎて単なる事務処理問題・事例演習の切り貼りじゃないかと批判されていたのでそれを受けて考えさせる問題を出そう、というコンセプトだったのだと思います。

設問1は名誉毀損の各構成要件の確実なあてはめが問われました。名誉毀損は模試でもガッツリ出題されたこと、マイナー犯罪の構成要件を確実にするのを個人的課題としていたことからここは丁寧に(むしろ丁寧すぎるくらい)できました。判例が8人で少数、25人で多数としていたことも覚えていたのでうまく処理できました。

実は模試のときは公然わいせつが3人でも多数になるんだから名誉毀損もなるんじゃない?と伝播性の理論を無視して5人くらいで多数と認定して失敗していたのでした。

 

設問2は刑法としては珍しい主張反論方式で戸惑いました。不作為の殺人それ自体は時間経過による状況変化がなく、過去問やフォロー答練に比べれば簡単でした。

しかし、不作為の殺人と保護責任者遺棄致死の違いは殺意の有無ということは知っていたのですが、問題文を読むとなんだか作為義務の程度や危険の程度でも違いを設けるべきような気がしてそれも書いてしまいました。試験現場での思いつきは良くないんですが、殺意だけで区別するのはどうにも納得がいかず……。

合ってるか怖くて確認できなかったのですが、先輩と話したところ殺意の有無だけではなく作為義務の程度でも区別するのが通説のようです(遺棄罪を生命・身体に対する危険犯と理解する立場。山口刑法各論第2版38頁など)。

ここ間違っていたら大幅な失点だったので安心しました……。しかし、ここはあまり議論されていない箇所のように思うのですが、相場観としてはどんな感じだったんですかね?単に僕が知らなかっただけでしょうか…笑

設問3は難問だったと思います。ろくに書けませんでしたが、ここでは差がつかないと信じたいと思います(自分がわからない問題は他の人もわからないはずだと自信をもつことが重要です)。おそらく今回の問題は設問1の丁寧さと設問2で作為義務の程度についても書けたか否かで勝負が決まっているはずです(と信じたい)。

 

刑訴

刑訴は前回の記事で書いたように直前に勉強していた領収書が出たので、問題文を開いて目に入った瞬間笑ってしまいました。

とはいえこういうときほど余計なことを書いて失敗するというので、落ち着いて問題文を読むように意識しました。捜査も超典型論点だっただけにあてはめで差をつけられないようにスピードは保ちつつ事実を拾い評価をつけていくことを徹底しました。結果、なんとか証拠に40分弱程度残しつつ捜査を4頁半書けました。

それにしても、伝聞は平成22年あたりの問題に比べればかなり素直になったと思いますが、それでも全体の検討量は多いですね。事前に理解していないとその場で考えているようでは確実に時間が足りなくなるだろうと思います。

 

試験後

ホテルで一息つくとすぐに友達とモールに向かい短答を詰め込みました。

刑事系は2科目なので1日目、2日目に比べれば疲労はそうでもないですが、短答をしくじれば今までの努力が全て水泡に帰すと思うと恐怖心は一番であったかもしれません。それでも、模試でも論文は良かったこと、そして本番でも論文がそこそこできた自信があったことから、短答さえ通れば受かると自分に言い聞かせてがんばれました。

とはいえ、刑法はわりと完成に近くありましたが(それでも執行猶予とか総論部分は気力がわかず結構捨ててしまいました)、民法は全然全体が終わらないし憲法も統治をしばらく放置してしまったし、膨大な知識量を前にして絶望する思いでした。3科目で良かったと心底思いました。これを7科目もやっていた先輩方にはとてもではないですが頭が上がりません。

21時半過ぎにホテルに戻り、風呂に入って少しやり、しかし疲労がピークだったので残りは朝にやろうと諦めて寝ました。

 

 

【最終日】

試験前

7時過ぎに起きました。慌てて部屋を片付け(本当に直前に慌ててばかりだ……)、机に向かって民法を見直しました。もう時間がないのでパーフェクトの印がついているところをひたすら見ていくだけです、が、それでも集中力がものすごいので頭に入っていきます。

論文の試験前の詰め込みはあまり意味が無いと思いますし、それより答案全体やあてはめのイメトレをしたほうがいいと思いますが、短答は過去問がそのまま出ることが多いので直前までの勉強が本当に活きると思います。

会場についても直前まで勉強しました。緊張で頭がどうかなりそうでしたが、あえなく試験開始を迎えます。

 

民法

年度別に過去問を5年ほどやって時間管理に気をつけていたので時間内に一応終えることができました。しかし難しかったです。本当に民法が苦手で泣きそうになりました。これでも一応民法ゼミだったのですが……

試験が終わるとすぐさま憲法の百選とパーフェクトを見返しました。直前にできることを最後までやります。

 

憲法

案の定というか有名重要判例のオンパレードでした。どんだけ旭川保険条例事件が好きなんでしょうか??全体的に比較的スラスラ解けたと思います(とはいえ、蓋を開けてみれば細かい部分でひっかかっていましたが…)。統治はなんだかんだでそこそこできました。

試験が終わると昼食を食べながらひたすら刑法の詰め込みです。さっきも直前に見た判例が出たりしたので恥も外聞も捨て悪あがきを心がけました(試験前に余裕をぶっっこくのが目標でしたがその目標は恥とともに捨てました)。

他方で、不安だった民法憲法が終わったからか、はたまたいよいよあと残り一科目のみだからか、張り詰めていた緊張の糸がプツンと切れ猛烈な吐き気に襲われました。考えてみれば寝不足ですし起きてから試験中も休み時間もずっと勉強していたのです。おにぎり2個食べて糖分補給のロールケーキも半分食べたのですがなんでこんなものを食べてしまったんだろうと後悔しました。

 

刑法

学説問題でうへぇ……となり一度飛ばしましたが、戻って考えてみたらなんとか解けました。その他も徹底的に判例を読んだことが幸いしスラスラと解けました。

おそらく全体で肢2つだけ間違えたのですが、両方ともよく考えればわかったはずなので悔いが残るところです(信用毀損と横領の親告罪)。

とはいえ、最後まで考えて事なきをえた問題もありました。「おまえの妻Bをひどい目に合わせてやるという脅迫文が家に届いたが実際には妻ではなく内縁の妻。脅迫罪が成立するか」といった問題で、「別に内縁だろうと妻だろうとあんまり変わんないし……Bと名前も出てるから特定性も十分だし支配圏に到達してるし……。え、これ成立するよね?でもそうすると数が合わない……え?」と頭が爆発しそうだったのですが、終了10秒前くらいに、「あ、そうか脅迫の対象は民法上の親族に限られるんだから内縁の妻なら成立しないじゃないか」と気づけたのは本当にホッとしました。最後まで諦めず考えることが大事ですね。

 

 

試験後

というわけで試験が全て終わりました。短答の結果も気になりますし最終的な合否も気になりますし、論文の回答筋も気になりますし全く気が晴れません。とはいえ最後まで受けきれたことに一応は安堵です。

父に連絡をし、一緒にゼミをしてきた友達と苦労を労い合いました。そのまま打ち上げで飲みにでも行こうかと思っていましたが、疲れていたためまた今度ということになり友達とタクシーに分乗して家に帰りました。

家は現在シェアハウスに住んでいるので、そこの皆がおかえりーおつかれーと迎えてくれたのが嬉しかったです。試験前1ヶ月くらいは皆が顔を合わせる度に「試験いつだっけ!?そろそろ!?」と煽ってきて正直うんざりしていたのですが、何やかんやと言いつつ応援してくれていたので感謝です。「ま、多分受かったかな!」と虚勢を張りつつ内心はビクビクでした。とりあえず2ちゃんに張り付きサッサと短答の採点をしてしまいました。刑法が46点だったのでまぁこれなら足切りはないだろうと考える暇も与えないように憲法民法も採点し、無事に130点を超えていたのでやっと一安心し一息つけました。

 

というわけで長い長い5日間が終わり、久々に自分の家のベッドで眠りにつきました。本当にしんどい試験でしたが、目標に向かって毎日頑張る日々は幸せでもありましたし、論文で満足のいくあてはめができたときは楽しい勉強でもありました。

というわけで合格を祈りつつ体験記を終えます。

 

司法試験合格(予定)体験記①

無事に司法試験を受験し終わることができました。

改めて、体力・精神力ともに限界まで削られる試験ですね……。二度と受けたくないと思いました。

 

まず苦手な短答ですが、なんとか130点以上をとることができました。一安心です。

最終合格者平均にはいかないでしょうが、短答合格者平均はなんとか超えられそうです。

民法

目標の60点には届かず50点前後でした。大崩れせず良かったものの、最後まで克服できなかったのは残念です。

憲法

重要判例を読み込むという作戦が功を奏し、35点前後でした。ただ、専門家でも見解が分かれる問題を出すのは相変わらずどうかと思いました…。

刑法

苦手な学説問題を克服し全問正解することができました。マイナー犯罪の判例六法読み込みも効き、46点前後でした。

というわけで刑法に救われた形です。本当に良かった……。

 

さて、結果はわかりませんが自己満足的備忘録的意味で合格(予定)体験記を書いておきます。

 

【前日】

前々日までに民事系のインプットに目処をつけて公法・国際私法のみやる予定でしたが民事系が中々終わらず結局この日の午前中までやっていた気がします。このままじゃ永遠に終わらないと見切りをつけて公法の答練の復習をザッと終わらせ、国際私法の今まで解いた全年度分の過去問をザーっと見返しました。

それも中々終わらず、15時くらいには大学を出て有明のホテルに向かうつもりでしたが、結局ホテルに着いたのは19時くらいでした。コンビニで買った夕食を部屋で食べ、風呂に長く浸かり(今住んでる家にはシャワーしか無いのでホテルに泊まる機会があるとこここぞとばかりに長く入る)、国私を詰め込んで睡眠薬を飲んで12時頃寝ました。ただ全然寝付けず相当うなされ何度も目が覚めました。

 

【1日目】

試験前

7時過ぎには起きるつもりでしたが中々寝付けなかったのもあり(睡眠薬を飲んでも寝付けなかったのは珍しく、緊張していたことが伺われます)、起きたのは8時過ぎでした。普通に寝坊です笑。

父と彼女から連絡が来ていたので慌てて返し(僕が寝坊しがちなので毎回連絡してくれていました)、トマトジュース、プロテインと粉飴の牛乳シェイク、スタバのコーヒーのペーパードリップ、バナナ、果物入りヨーグルト、レーズンパンという朝食(ここ数ヶ月まったく同じ朝食を摂るようにしていました)を食べて、さっと国際私法を見返して試験会場に向かいました。

会場に9時くらいについて一息つくと後ろから◯◯と小さい声で僕の名前が呼ばれました。なんとローで仲の良かった(しかしよくケンカをする)友人が斜め後ろに座っていたのでした。腐れ縁もここまでいくとすごいです。これでだいぶ緊張が和らいだように思います。

 

国際私法

昨年国際取引法が出たため出ないだろうと思っていたところ案の定出ずに安心しました(ウィーン売買条約は得意ですが、信用状取引等は捨てていました)。

第1問の最初が法性決定で悩む問題で難しかったですが、それ以外は通則法、国際民訴からのスタンダードな問題だったと思います。

模試後ネットの講座を取って全年度の過去問をザッと全てやり直し、趣旨や反対説等もかなり自分のノートに補充したのですが、それがかなり活きたように思います。

 

憲法

国際私法がわりとできたのでいいスタートを切れたわけですが、憲法の問題文を開いた瞬間愕然としました。問題文が会話形式でしたし、何より設問がいわゆる三者間形式でなくなっていました。

正直、相当焦って冷や汗が出ました。僕は憲法はとりわけ直近2年の問題や採点実感等、そして昨年公法系1位の答案を徹底的に研究し、いかに形式を守ることが高得点に繋がるかがわかっていてそれを守ることだけを考えていたのに、それができなくなってしまったわけです。

判例を意識して、というところにだいぶ引きづられてしまい、答案のバランスがうまくとれなかったと思います。悔いが残るところです。

おそらく、問題が研究し尽くされて中身がスカスカでも形式が守れていれば(さらにたいして判例を意識しなくても)高得点がついてしまうことを憂慮しての形式変更だと思います。

まぁ真の憲法の能力があればどのような問題にも対処できるはずなので、そういう意味では言い訳ができないことではありますが、過去問を研究してきた人ほど焦った問題だったと思います。

わいせつ文書の規制という内容も、たしかにオリンピックを迎えるにあたり社会的に問題視されている観点で、僕自身もアメリカではコンビニとかには置いてなくて日本の特殊な部分だよなーと考えたりしていましたが、それだけに(?)色々と言える部分が多く、問題文から離れず書くのが難しかったと思います。

 

行政法

原告適格と裁量論というある程度予想していた出題でした。

しかも、個別法が辰巳のスタ論スタートという講座でやった墓埋法そのもので、ラッキーでした。墓埋法の原告適格は講座のものより難易度が高かったので、二人の書き分けという意味でも難しい問題だったと思います。

裁量は裁量基準がなかったためあてはめ勝負でした。憲法で消えた主張反論形式が出てかなり戸惑いましたが、概ね書けたと思います。

 

試験後

ホテルに戻って軽く食事をし民事系の勉強をしましたが全然頭に入ってきません。とはいえ模試の経験から1日目の夜にまともに勉強できるとは思っていなかったので、重要なところをサッと眺めてあとは翌朝にやろうとある程度諦められました。

しかしメンタルが相当キツイ夜でした。なんでこんなに辛い思いをしているんだろうと思いました。1日目の疲労、憲法の衝撃、そして明日は一番暗記量が問われる勝負の民事系……、まとめノートを全て完全に覚えているわけではない……。

司法試験は1日目、2日目の負担が重すぎるというのはよく不満が上がるところですが、あえて受験生に負担をかけてメンタルの弱い、あるいは試験前に詰め込みをしようとしている受験生を落とす?意図なのかなと勝手に思っています。

普段は親や友達に泣きついたりあまりしないんですが、学部のゼミとローが一緒だった友達にしんどいとLINEしたところ電話をしてくれました。友達と話すとだいぶ不安が取れるものです。お陰でなんとか心が折れずに済んだと思います。

 

 

【2日目】

試験前

緊張はだいぶ解けたのか睡眠薬がよく効き勉強中に寝落ちし、朝7時過ぎに目覚めると民事系のノートがベッドに散乱している状態でした。

昨日と同じ朝食を食べ、軽くシャワーを浴びて、机に向かい民事系の最終確認をし、9時頃に試験会場に向かいました。

 

民法

設問1は落ち着いて条文から考えられ、よくできたと思います。

設問2は苦手だった所有権留保が出ましたが、ある程度予想して直前に見ていたところだったので比較的できたと思います。登記の問題も自分なりに処理ができたかなと。

設問3も予想していた相続させる旨の遺言でしたが、何を思ったか時間がなくて焦ったのか、金銭債務を預金債権と同様に不可分債務と書いてしまいました……。預金債権についてはきちんと書けたので、大きく減点されていないとよいのですが。

 

会社法

予想していた帳簿閲覧請求と利益相反間接取引が出ました。

帳簿閲覧請求は典型的な競業の問題ではありませんでしたが、落ち着いて処理できたように思います。株主総会取消決議は答練か模試で出て復習していた議長の議事整理権で書くことができました(おそらく説明義務違反で書いてしまう人が多いだろうなぁ〜と思いながら)。ただあとで友達と話してどうやら利益供与の論点を落としてしまったようでへこみました。Gについては全くわからなかったので飛ばしてしまったんですよねぇ……。

利益相反については徹底的に対策していたのできちんと処理できたと思います。非常に登場人物の関係が複雑でややこしかったですが。

最後の174条の問題はどこかで見覚えがあったのですが、あとで友達と話したところローの期末試験で出ていたらしいです。まぁこの問題は趣旨から自分で規範を定立してサラッと処理できればよかった問題だと思います。

 

民訴

民法・会社は一応そこそこできたと思い、ここいらでなんだか試験を受けるのが楽しくなってきました(ランナーズハイみたいな?あるいは疲れすぎておかしくなったか…)

民訴は弁論主義も既判力もでずかなり肩透かしを食らった感じですが、ある程度予想していた文提が出ました(ほんとに出るんだなぁとなんだか笑ってしまいました)。

補助参加の問題は難しかったですが、落ち着いて条文を見て一応の回答は書けたと思います。

 

試験後

彼女が有明まで来てくれたので近くのモールでもんじゃ焼きとお好み焼きを食べました。

試験中に何をしているんだというように思われるかもしれませんが、自分的にはこれくらいの余裕が無いくらいではダメだと前々から決めていたので、一度リラックスできて良かったです(模試のときも2日目終わりはたいてい外で遊んで帰りました)。一瞬だけでも試験のことを頭から置いて、またすぐに切り替えることが重要だと思います。

 

 

というわけで次回は中日から最終日にかけて書いていきます。

不安を飼いならす(司法試験模試の結果と今後の課題)

youtu.be

 

ご無沙汰してます。すっかりブログからも遠ざかってしまってました。

司法試験まで1ヶ月を切りました。司法試験ブログではないのですが、決意表明と自分への確認的な意味で、模試の結果が出たのでこれを晒して、ここまでの勉強を振り返って思うところを少し書いて、今後の課題と方針を書いておこうと思います。

(追記:なお、今年の本試験でA評価となる上位19.2%以内は赤字で表記し、D評価以下となる38.4%以下は緑字で表記します。)

 

TKC模試

【判定】

総合 B 上位16.6%  331位/1991人

論文 B 上位12.0%

短答 D 上位62.7% 

 

【論文】

公法系 A 上位5.8%[憲法 A 上位7.6% 行政 B 上位11.4%]

民事系 A 上位6.4%[民法 B 上位11.4% 会社 B 上位13.0% 民訴 B 上位15.4%]

刑事系 C 上位42.9%[刑法 D 上位59.5% 刑訴 B 上位27.7%]

選択科目(国際私法) E 上位74.1%

 

 

2 辰已模試

【判定】

総合 A 上位15.4%  325位/2102人

論文 A 上位15.5%

短答 C 上位57.2%

 

【論文】

公法系 A 上位19.3%[憲法 C 上位41.0% 行政 A 上位10.5%]

民事系 B 上位23.1%[民法 A 上位12.7% 会社 C 上位50.6% 民訴 B 上位26.6%]

刑事系 A 上位7.5%[刑法 B 上位22.2% 刑訴 A 上位 5.2%]

選択科目(国際私法) C 上位48.4%

 

 

3 両模試の論文の平均と本試験換算評価

憲法…上位24.30% B

行政…上位10.95% A

民法上位12.05% A

会社…上位31.80% C

民訴…上位21.00% B

刑法…上位40.85% D

刑訴…上位16.45% A

国私…上位61.25% F

 

 

ということで、なんとか両方の模試で合格推定に入ることができ、ホッとしました。

ただ、短答がギリギリで冷や汗をかいています……。

良くも悪くも、総合、論文、短答ともどちらもほぼ同じなので実力が反映されている?と思います。

 

1 ここまでの勉強の振り返り&模試の感想

(1) 全体的に意識したこと

起案中心

今年は昨年とは違ってとにかく答練や過去問を実際に解いて書くということを勉強のメインにしました。だいたい答練と過去問で各科目15〜20通くらいは起案したと思います。なぜなら、以下のように利点が多いからです。

①実際にアウトプットしてあてはめの練習をすることではじめて論点を理解できる

②重要論点に必然的に何度も触れることになり、知識に強弱がつけられる

③受験生の相場観がわかり、必ず解けなければいけない問題とできなくてもいい問題がわかってくる。論述に力を入れるべきところがわかってくる

④自分のできなさを痛感することでモチベーションを維持できる

⑤わからない問題に直面したときの処理方法を学べる(意外と条文や趣旨から考えれば点がつく)

⑥時間管理、論述の配分管理ができるようになる

⑦一日中自習だとどうしてもマンネリ化してしまうが、起案や解説動画の視聴を入れるとメリハリが出る

たくさん問題を解いてみて、司法試験は知識が半分、問題の解き方が半分ということがよくわかったような気がします。特に公法系や刑法では、2時間をどう使うか、どこに力を入れて書くか、という書き方の違いだけで全然点数が変わってくると思います。実際に起案して解いた問題の数が力に直結する部分がかなり大きいと思いました。

 

友達に訊く

それと、ゼミや普段の勉強からわからないことはすぐ友達に訊くようにしました。これによって自分の理解があってるか確認できますし、皆が同じところで悩んでいるということがわかったり、そこは深入りしすぎないほうがいいと教えてもらったりすることで、勉強の強弱の方向性や時間の使い方がブレないようになったと思います。

 

(2) 昨年の反省

昨年は留学帰りで時間がとにかくなかったのもあり、得意だと思っていた刑法、コスパが良さそうな憲法や国際私法で勝負しようという戦略を立てました。

しかし、刑法は近年は問題の難易度が安定していること、種本が明らかであることから受験生のレベルが結構高く、高得点を採るのは中々難しい。憲法は確かに覚えるべき知識は少ないものの、運の要素が強く頼るべきではない。国際私法はあくまで選択科目であり、基本科目ができるのを前提とすべきである、と考えました。

そして、民事系全体に苦手意識があったのですが、民事系は科目数が多いこと、そして勉強量が点数に反映されやすいことから、ここに一番時間を割くべきだと考えて、今年は民事系全体の克服を目指しました。結局民事系(特に民法)から逃げていては合格は覚束ないと思いました。というわけで起案以外の勉強の多くの時間は短答と民事系に当てました。

 

(3) 各科目

民事系

ということで今年一番勉強した民事系ですが、だいぶ苦手意識は払拭できました。

民法は範囲は広いものの勉強量が確実に反映されますし、請求の立て方や条文から考えるという思考に慣れれば未知の問題が出てもなんとか対処できます。

会社法はとにかく判例を知っていればよく、そして意外と受験生のレベルが低く、かつスピード勝負の科目なので、基本論点を悩まず書いて時間を稼いで、831や423、429等のあてはめ重視の問題で量を書ければ点数は安定すると思いました。難しい問題はできなくてもたいして気にする必要はないと割り切れるようになりました。

民訴はとりわけ苦手意識が強かったのですが、受験生全体でも苦手としている人が多くレベルはそこまで高くありません。既判力、弁論主義、処分権主義等の重要概念をきちんと正確に理解すればあとはその応用にすぎませんし、判例の射程問題でも誘導にしっかり乗って原則例外の枠を守れば点はつくなと思いました。

模試の結果を見ても、辰已の会社法はしくじりましたが総じて民事系はよく、勉強の成果が出て嬉しく思います。特に民法はずっと苦手意識があったので、多少は克服できたのかな?と思っています。

 

公法系

公法系は問題を解いて復習する以外たいして勉強はしていないのですが、どちらも良かったので正しかったなと思います。

特に行政法はひたすら答練・過去問で練習するのみだと思います。やることは結局毎回同じなので、もしかしたら一番安定しやすい科目かもしれません。原告適格・処分性・裁量論は何度も実際に手を動かしてみなければ正確に書くことは難しいです。

裁量論は毎年のように出ているのにきちんと書けている受験生は多くありません。裁量が認められることを形式的理由・実質的理由双方から認定する。それが誰のどの判断に対するどんな裁量なのかを明示する。裁量基準がなければ裁量の逸脱濫用の規範をきちんと立てる。裁量基準があればまず行政規則には法的拘束力がないこと、にもかかわらず裁量基準として考慮すべきである理由をきちんと書く。合理的な裁量基準に従っていれば原則適法となることを理由とともに書く。そしてその合理性を検討する。合理的であっても個別事情審査義務に違反していないかを別途検討する。当たりまえのようですが、当たりまえに見えることを確実に行うのは案外難しいし、かつそれが一番重要であるということが多くの起案を通して身に沁みました。行政法はとにかく時間が厳しいので個別法の解釈以外の知識の部分で悩んでいるようでは絶対に最後まで書ききれません。

憲法はとにかく原告をコンパクトに抑えて私見に時間を残すことを強く意識しました。特に近年の問題や今回の模試両方のように2つの請求がある場合は時間が確実に足りないのでこれが重要です。答案政策の重要性が極めて高く、抽象論には配点がほぼ無さそうなので理論や知識はごく少量で足りるなと思いました(短答には必要ですが…)。判例に引きつけて考えることは当然重要ですが、それができないことを恐れるよりも、むしろそれに気を取られて目の前の問題文の事情から離れてしまうことを恐れるべきということに気づきました。

というのも、僕は情緒的な人間でしばしば登場人物に感情移入してしまい、つい私見で原告か被告に肩入れしてしまって筆が滑ってしまうということがよくありました。それが反省点です(辰已でも可哀想な原告に感情移入してしまい本件ではそこまで要求されていないことをだらだらと書いてしまいました)。平成29年の問題のように被告の反論は問題文に明示される可能性が高いので、愚直にそれを書くように意識したいと思います。上に憲法に頼るべきではないと書きましたが、そこさえ外さなければ憲法である程度の上位を取ることは難しくなさそうです。

 

刑事系

刑法はどちらも伸び悩んでしまったのが悔しいです。やはり受験生のレベルが高い科目だと思います。それだけに細かい気配りの積み重ねで点差がついてしまうのだと思いました。特に各論の構成要件の定義の正確さ等色々な部分で改善すべき点が見えてきました。事実の摘示と評価は比較的得意なのですが、むしろあてはめで書きすぎてしまうきらいがあるので、憲法同様筆が滑らないように意識する必要があると感じます。刑法は近年は量が多いので、何よりメリハリをつけることが最重要です。どこに山をもっていくかを決めて、それ以外はアッサリ書く(あるいは捨てる)勇気を持ちたいと思います。

刑訴は捜査法が比較的取り組みやすく証拠法・公判が難しいというイメージを持っていることが多いと思います。僕もそうなのですが、意外と捜査法は理論的な部分の詰めが重要かなと思いました(考えれば考えるほど納得できない部分が増えてはくるのですが)。そこの詰めがしっかりできればあてはめもスムーズにできます。捜査法は科目として面白く、友達と一番議論したなぁと思います。

刑訴でよくある失敗が捜査法で書きすぎて証拠法が極端に薄くなる、ということですが、捜査法はやはりあてはめ重視なのであてはめを簡略化することもできないと思いました。そこで僕は捜査法は典型問題に慣れることで十分な量を速く書くということを目標にし(つまり量は維持しつつ速く終える)、ある程度達成できたと思います。すなわち証拠法や公判にしっかり時間を残して、伝聞の推論過程等も丁寧に書くことができるようになったきたと思います。

 

国際私法

国際私法は答練がなかったのもあり、今年はほとんど放置してしまいました。確かにそこまで勉強量が必要な科目ではないのですが……。

 

短答

短答が相変わらず苦手で、どちらの模試もギリギリだったのでこの点はかなり落ち込んでいます。論文が良かっただけにもったいないですし、この期に及んで短答の心配をしている自分が嫌でなりません。

今回は特に得意な刑法でどっちも沈んでしまったのが痛かったです。細かい知識の正確性がまだまだだと反省させられます。憲法も重要判例の判旨が不正確だったり、人権分野での間違いが目立ちました。そしてやはり配点の高い民法の実力が足りていません。論文は比較的できてきたのに短答がイマイチなのは、良くも悪くも論文を起案量の慣れで乗り切っているということなのかなと思います。

 

2 残りの勉強方針と課題

(1) 全体

集約型

色々不安になって手を広げたくなってしまうのですが、血迷わず、今までやってきたことを淡々と確認し、身につけるようにしたいと思います。つまり、いわゆる拡散型の勉強ではなく集約型の勉強をしたいと思います。

具体的には今まで解いてきた過去問や答練の論点を復習しつつ、自分の答案と配点表を見比べて、あと5点、あと10点とるにはどうすればいいか、ということを意識したいと思います。最終的には答案で何点とれるかなので、常に答案でどう書くか、何は書かなくていいか、ということを意識して勉強したいと思います。

 

優先順位の高いものからやる

どうせ全てを完成させるのは無理なので、優先順位の高いものから確実にしていきたいと思います。ここが出たら嫌だなぁという穴を潰しつつ、典型重要論点がスムーズに書けるかを確認したいと思います。

 

起案は続ける

同時に、インプットばかりやって問題を解く感覚は失いたくないので、過去問の起案はある程度は続けたいと思います。

 

 (2) 各科目

民事系

基本的には答練と過去問を復習しつつ、えんしゅう本と百選を回したいと思います。特に民法会社法は常に条文を手元に置いて本番をイメージすることを意識したいです。特に会社法は目次から条文を引くことがまだ課題です。条文を探すのに時間がかかることが多いので、論点ごと、さらに知らない分野でもすぐに条文が引けるかを確認したいと思います。

中身について、民法は出題が予想される担保物権家族法、さらに債権譲渡等苦手な分野を中心に論証を確認したいと思います。会社法は百選のA、Bランクを中心に復習したいと思います。民訴は昨年のような重要概念の問題とそれ以前の判例の理解を問う問題双方の出題が予想されます。そこで、弁論主義、自白、処分権主義、既判力についてはもう一度基本書などを用いて理解を確認し、かつ百選のA、Bランクを中心に復習したいと思います。特に苦手な複雑訴訟と上訴についてはそれぞれの制度趣旨や規範、あてはめについて確認したいと思います。

 

公法系

憲法は短答対策で百選を復習。あとは答練、過去問の参考答案を見ながらどうやって構成するか、どういう対立軸を置くかをイメトレしたいと思います。また、社会権や私人間効力等書き慣れていない問題のフレームワークを決めておくことも課題です。このあたりは問題集などを参照したいと思います。

行政法原告適格、処分性、裁量論の処理とあてはめを再確認し、さらに各訴訟要件について要件と定義を覚えて本番でスムーズに処理できるようにしたいと思います。コンパクトに論じるところと丁寧に論じるところのメリハリをつけて時間内に終えるように。

 

刑事系

刑法は間接正犯の知情類型や共犯など総論でいくつか理解があやふやな部分を確認したいと思います。あとは各論の構成要件と定義。比較的マイナーな犯罪も含めて漏れなく正確にあてはめられるようにすることが課題です。重大な法益侵害を拾う、争点となる犯罪を拾う、という意識でメリハリのついた論述を心がけたいです。

刑訴は証拠法の犯行計画メモや実況見分調書など苦手なところと、公判の訴因の特定や認定など苦手な部分を潰したいと思います。

 

国際私法

今年一番勉強していない科目です。 民事系に十分な時間を割くという戦略自体は正しかったと思いますが、流石にこれではマズイので、残りでなんとかそこそこレベルまでは上げれればと思います。やはり一科目でもFを取ると厳しい……。

去年は結構勉強したので、前にやった過去問、基本書、論証、問題集をザッとをやり直して記憶を喚起したいと思います。法性決定で議論があるところを押さえる、反対説を押さえる、趣旨を充実させる、このあたりが課題です。

 

短答

ここに来て最大の課題が残念ながら短答です。昔からマークシートが苦手なんですが、最後まで苦しめられます……。

対策はパーフェクト中心ですが、最近はこれに加えて年度ごとの過去問を本試験より短い時間で定期的に解いています。こうすると全範囲に短時間で触れられるし、速く解く練習になるのでいいかなと思っています。

民法は知識の強弱をつけるためにもあまりやってなかった百選をここ最近やってます。百選判例については確実にしたいです。あとは条文知識が足りてないので、条文や択一六法を脇においてチェックを付けながらパーフェクトや百選を回してます。

刑法は、学説問題が課題です。そのためパーフェクトだけでなく条文を脇に置きながら百選や基本書を確認してます。どの科目もそうですけど、勉強が進んでから百選を読むと面白い…(昔は最初に百選を読んでたりしたんですがこれは効率が悪かった)。あとは基本論点でも判例知識の詰めが甘く、5個の正誤問題で1つ落とすとかがよくあるので、出題済みの判例知識は確実にしたいと思います。あとは各論のマイナー犯罪が課題です。論文にも直結するので時間を使いたいと思います。

憲法は大法廷判決や新しめの判例を中心に著名判例の判旨や結論を確実にすることが課題です。著名判例はかなり細かく訊いてくるのでしっかり判旨を読み込まないとダメだなと感じました。ただ民法・刑法に比べると費用対効果が悪い気がするので、民法と刑法で確実に8割が取れることを最優先にしたいと思います。

 

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優秀な友人が「司法試験は相対評価だから」ということをしばしば言ってましたがようやく意味がわかってきたように思います。結局差がつくのは典型論点をどれだけ正確に書けるかということだなと。まぁ、彼らにとっての「典型論点」の範囲はわりと広いというのもあるかもしれませんが……。山を高くしていけば裾野も自然に広がるということでしょうか。

どうしても難問ができないことに気が取られてしまいますが、ある程度は諦めつつ、基本的なところをしっかりできるようにして後悔しないように頑張りたいと思います。

ということで本番までわずかですが、悔いが残らないよう毎日を過ごしたいと思います。

 

筋トレ・食事・バルクアップ

夏くらいからまた筋トレを始めている。最近特に趣味もないし、勉強以外に成長を感じられる何かが欲しかったからだ。ローの周りとかでもハマっている人が多い。

アメリカにいると筋トレをしたくなるので、読者の方でやっている方も多いと思う。僕が初めて筋トレをしだしたのは大学1年の冬で、ヨーロッパ一ヶ月旅行に向けて体を鍛えようと思ったのがきっかけだった気がする(あと海辺のカフカの影響??)。しかし旅行を終えると辞めてしまった。

その後カリフォルニアでアメリカのマッチョ文化に影響を受けてまた始めた。しかし今思うとそんなに本格的にはやっていなかった。帰ってきてまた辞めてしまった。

ペンへの留学が決まってまた始めた。今回の留学の目的の一つに筋トレして強くなるということを掲げていた気がする。僕は線が細いのでそれが結構コンプレックスだったし、アメリカでは筋肉が無いと男として見られないからだろう。

ペンのジムに登録して週何回か行ったしプロテインも飲んでいた。しかし今思えば食べる量が少なかったかもしれない。そんなに体がでかくなったという気はしない。

 

ボクシングを始めてやっと筋トレ(と体重を増やすこと)に目覚めた気がする。ボクシングといえば普通は減量だが、僕の出たFight Nightはだいたいの重さで対戦相手を決めるところ、恐らく一番軽い相手と戦うことになるから、少しでも重くしたほうが有利と考えたからである。僕がとった増量方法は簡単で、①とにかくカロリーを摂る、そのために1日4食位食べる、②炭水化物メイン、③プロテインを1日3回くらい飲む、というものである。これにより、数ヶ月で5キロくらいの体重増に成功した(それでも66キロとかですが…)。

日本に帰ってからは、司法試験に向けた体力維持のために週1で友達とジムに行っていた。しかし週1では筋力増はなかなか臨めない。プロテインも飲んでいなかった。おまけに年明けから5ヶ月間断酒した。その影響か(まぁ一番はストレスかな…)、普通に食事は採っていたけど7キロくらい痩せてしまった。元通りである。

世の中では皆ダイエットを叫んでいるが、僕のように太れない体質からすると理解ができない(と言うと女子に羨ましがられるのだが……)。

 

体重を減らすのはそんなに難しいことではないと思う。基本的には摂取カロリーが消費カロリーを下回ればいいはずで、それに加えて炭水化物や脂質を控えめにすればいいからだ。断酒も効果的だと思う。酒自体はそこまで高カロリーではないが、酒を飲めば脂っこいツマミも自然と食べてしまうし、寝るのも遅くなる。酒を飲んだ後シメにラーメンでも食べようものなら最悪である。酒を辞めれば自然と晩御飯のカロリー減ができると思う。

食事を抜くのも良くない。かえって反動で食べてしまったりするからだ。結局、炭水化物や脂質を控えめにしつつ三食きちんと食べて、適度に運動していれば自然と痩せるのではないかと思う。そんなに簡単ではないかな?ごめんなさい

 

僕が今ルクアップ(体重増加)の為にしていることは以下のような感じである。

①カロリーを摂る

僕は1日3500キロカロリーを目標にしている。たぶん多すぎるのだけど、これくらい食べないと太れない。

②PFCバランスを意識する(タンパク質を意識的に摂る、脂質も気にせず摂る、炭水化物を多めに摂る)

更にPFC(タンパク質、脂質、炭水化物)バランスというのが重要で、僕はだいたい25:15:60の割合(200g, 100g, 500gくらい)を目標にしている。

タンパク質は1日3〜4回、プロテインを牛乳と飲めば結構摂れる。余裕があればゆで卵やブロッコリーも食べるようにしている。プロテインはアメリカの時からずっとオプティマムのを飲んでいたが、最近はビーレジェンドとかマイプロテインも試して飲んでいる。

脂質は、リーンバルクのためには控えた方がいいが、僕は内臓脂肪(レベル2)も体脂肪率(今だいたい14%)も低いし、カロリーを摂るには必要なので、あまり気にせず摂っている。

炭水化物は米や麺から摂ればいいが、そんなに大食いではないので、1日500g近く摂るのはなかなかしんどい。そのためマルトデキストリン(粉飴)という味のない砂糖のようなサプリをプロテインとかに混ぜて飲んでいる。これにより簡単にカロリー・炭水化物が摂取できる。

カロリー計算は「あすけん」や「MyFitnessPal」というアプリで簡単にできる。アメリカにいたときは前者を使ってたが、こちらは体重を減らすという目標設定しかできないので、後者に移行した。

③毎日体重を測る

意識することが大事なので、毎日測ってアプリにつけるようにしている。

④筋トレ

ずっと区立のジムに通っていたのだが、ちょっと遠いので、最近近くの24時間ジムを登録した。分割法で週3〜5回くらい行くようにしている(本当は毎日行きたいんですが……)。クレアチンやBCAA等のサプリも飲むようにしてる。クレアチンは喉が渇いたり眠くなったりと副作用があるけど、本当にすごい。目に見えて効果を感じる。

 

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僕は食事は結構めんどくさいと感じて抜いちゃったりするほうなので、これだけ食べなければいけないというのはしんどいのだけど、きちんと計算してるとやる気になってくる。

さらに、体重増加だけでなく一応野菜やマルチビタミンとかも摂るようにしてるので、体調も良くなった気がする。考えてみれば試験前はめんどくさくてカップ麺で済ませることも多かった。しかしやはり体が資本なので、食事と運動はきちんとしなきゃなぁ、と思っている。ていうか本当に食事って大事ですね。だって体の中に入るものだもんね。今まで全然健康とか気にしてなかったけど、20代も後半になってようやく健康に目覚めたようである……