官庁訪問という時代錯誤な採用制度

「まさか。大体はアホだよ、アホじゃなきゃ変質者だ。官僚になろうなんて人間の九五%までは屑だもんなあ。これ嘘じゃないぜ。あいつら字だってロクに読めないんだ」

村上春樹ノルウェイの森』)

 

今年も官庁訪問の季節がやってきました。

僕は司法試験と並行して国家総合職試験に合格し、官庁訪問を経て某省庁の内定を得たわけですが、官庁訪問は時代錯誤な採用制度としか思えません。

そこで前に書いていた官庁訪問批判記事を投稿します。

*なお、当然ですがこれは各省庁自体への批判ではなく、官庁訪問という制度自体やそれを運営している人事院への批判です。私が訪問した省庁の職員の方は皆さん学生のために丁寧な業務説明を行ってくださいましたし、学生に気を遣って採用活動を進めてくださいました。その点は改めて感謝申し上げる次第です。

 

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1  なぜ事前予約制にしないのか

官庁訪問は事前予約制ではなく、総合職試験に合格して採用名簿に名前が記載されている限り(総合職の場合は合格から三年間)アポなしで行える。面接カードすら、持参せずとも当日に待合室で書いてもよい。そのため、一応直前・当日まで訪問官庁を選ぶことができる点で学生にとりメリットとなっている。

しかし、説明会参加人数等である程度は予想できるとしても、おかげで官庁側は何人来るかを事前に把握できない。学生が希望する原課面接(*1対1の業務説明)の分野もわからない。その結果、膨大な待ち時間を学生に課すことになる。

待ち時間の間は一応雑談や読書等何をしてもいいことになっている。しかし、職員の方と会話したりしなければならないことも多いし、しかもいつ呼ばれるかわからない緊張のためものすごく疲れる。事前予約制にして人数と原課の希望を事前に把握しておけば当日に慌てて手配する必要もなく、こんな待ち時間は発生しないはずである。

 

2 拘束時間が長すぎる

拘束時間も無駄に長い。一応人事院の建前としては「受験者を早期に帰宅させるよう最大限配慮する。 午後10時以降にわたって受験者を拘束しない。」としている。これ自体も長すぎると思うが、さらにこれは建前にすぎない。終電までの拘束は日常茶飯事であり、実際に僕も終電で帰ったこともある。

何より、朝の段階で霞が関から最寄り駅までの終電時間を申告させられる。これには閉口した。

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(字が汚いのはご容赦あれ)

8時半から24時過ぎと16時間近く拘束され、実際に原課・面接等が行われるのはそのうち4時間程度であり、それ以外はいつ呼ばれるかわからない状態で待合室でずっと待機させられる。待合室は環境省が決めた謎の28度設定のせいでものすごく暑い。非効率だし人権無視以外の何物でもない。

確かに、その間も職員の方が声をかけてくれたり、飲み物とお菓子が振る舞われたりという配慮はある。また、学生が終電まで残っているということは職員の方もそれ以上に残っているということである。

しかしそんなのは上に書いたように事前予約制を取ったり、日程を工夫すれば簡単に解消できる。こんな拷問のようなことをする必要はまったくない。

 

3  本音と建前の乖離

官庁訪問では、各クールごとに、2〜3回の原課と、入口、出口を含めた3回程度の人事面接が行われる。

原課は各省庁で現役に働かれている課長補佐級の方と1対1でお話することができる。業務内容について懇切丁寧に説明してくださり、最新の法改正等のトピック等を含め、あらゆる質問に応えてくださる。これはかなり貴重かつ魅力的な時間である。

しかし、建前上は原課はあくまで「説明会の延長としての業務説明」ということになっており、採用の評価へは響かないとされている。実際に明確にそのように言われた。

しかし、そんなわけがあるだろうか?人事の面接自体は非常に短いものであり、原課担当者からのフィードバックがないわけがない。採用には関係ないと言っておいてそれを行っているならば不意打ちであり卑怯と言わざるを得ない(本当に何も関係が無いならばごめんなさい)。

また、原課で業務説明があることからも、官庁訪問に際して事前の知識は不要とされている。しかし、原課がないうちから人事面接が入ることもあるし、知識が不要なわけはない。もちろん訪問している時点で興味があるわけだから必然的に知識も集めてきているはずであるし、何より志望しておいて何も知りませんという就活生はどうかと思うが、こうやってハードルを低くして学生を集めるやり方はあまり綺麗とはいえないだろう。

 

4  とにかく意味が分からないことが多い/人権無視

前述のように拘束時間が長いだけでなく、訪問中は事実上の軟禁状態であり、コンビニなどにも勝手に行ってはいけない。食事のときはゾロゾロと職員と一緒に食堂なりコンビニなりに行ったりする。勝手に建物のどこかに行かれてはならないというセキュリティ上の問題があるとしても、そこは立入り禁止区域を設けたり警備員を配したりすることで対処可能である(また、とある省庁では原課に個人で行かされたのでその理由は通らないと思われる)。

 

 

某省庁で実際にあったことである。

まず僕ともう一人が呼ばれる。面接ですか?と訊くと、「さきほど(すなわち原課)と同じようにお話を聴いてもらいます」と返ってくる。そして連れて行かれたのは面接室である。勘違いなのだろうか?嘘をつく意味がわからないし、答えられないならば答えられないと言えばいい。

面接室の前の椅子に座らされ、待つように言われる。すでに5人くらいが待機している。徐々に呼ばれて中に入っていくが、その呼ばれる順番はバラバラで、中には2時間待たされた人もいた。2時間である。僕の隣の女性の学生はあがり症らしく、2時間ずっと緊張していて相当疲労していた。扇子でいくら仰いでも汗が止まらない。いつ面接に呼ばれるかわからない状態で待たされる苦痛は読者の皆さんも想像できるだろう。なぜ面接の直前に待合室から呼ばないのだろうか?全く本当に意味がわからない。

終わるとまた椅子で待つように言われる。数人が集まるまでそこで待たされる。別にそのまま待合室に各々帰らせればいいのではないだろうか?理解不能な非効率さである。

 

こういう人権を無視した取扱いの理由をあえて考えるとすれば、こういう理不尽にも耐えられる人材、長時間の拘束にも耐えられる人材を求めており、そのテストということだろうか。アメリカの大学のファイナルクラブでも今時そんなことはないんじゃないだろうか。

仮にそうだとするならば、そんな理不尽がまかり通る官庁の仕事はどうかね?と言わざるを得ないし、日本人お得意の我慢大会でしかないと思う。

 

5 おわりに

官庁訪問という制度は昔から行われているんだろうが、日本の非効率さと理不尽さ、苦労を美徳とする悪習の象徴であるように思えてならない。優秀であるはずの官僚の人たちがこんなことを何の疑問も覚えずにやっているとは考えられないが、悪しき伝統として認知されているのだろうか。俺も苦労したんだからおまえらも頑張れ、ということだろうか。

そして日本の中央省庁がこんなことをやっているようでは国力の低下もむべなるかな、といったところである。優秀な学生が官僚という進路を選ばずに民間を選ぶようになってきたというのも納得ができる。公務員はオワ〇ン等と揶揄されても文句は言えまい。

民間でも怪しい企業は怪しい採用活動や怪しい新人研修をやっているところもあるだろうが、中央省庁にはコンプライアンスの意識とプライドを持ってほしいところである。

 

官庁訪問は騙し合いでとにかく疲弊する。僕も内定を得て終わってみれば「まぁなんだかんだあったけど内定取れたし、大変だったけどいい経験だったかな」とも思ったが、それはあくまで結果論であり、普通に考えて異常な採用制度である。

もちろん国の制度を変えるというのは大変な努力が必要だろうが、より良い人材を得るためにも採用制度の変更を強く望む次第である。

学生の皆さんは暑い中大変ですが、頑張ってください。