アメリカ大統領選について思うこと②ーなぜトランプは支持されるか

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さて、前回

 

pennguin.hateblo.jp

 

は日本のことばかり話したので、今回はようやくアメリカのことについて

 

おそらく皆さんもうんざりしていることだろう。討論会を見ていても、まるで子供の喧嘩のような泥仕合になっている

この原因は、クリントンの度重なる虚言やFBI捜査などもあるだろうけど、主にはトランプのムチャクチャな発言と態度のせいだ

あれだけのあり得ない人種差別発言を見ていて「なんでこんなとんでもない奴が支持されるんだ?」というのが一般的な日本人の感想だと思う

そして、アメリカ人でもロースクール生などのわりと「まとも」な人と話していると「もうこんなことになって恥ずかしいよ」という言葉ばかり耳にする。僕の友人でトランプ支持の人を見たことがない

 

トランプ支持者に支持の理由を尋ねるとこんな答えが返ってくるようである

  • 正直で、自分の言葉で話している
  • 誰もが思っていることを恐れず言ってくれる
  • 人間味がある
  • 何か変えてくれそう
  • 実業家として実績をあげている

僕はこういうのを聞いていると、一概にトランプ支持者を非難することもできない。まぁ確かにそう思うのもムリもないよな、と思うのである

トランプに対するこの熱狂的な支持の原因を理解することは、現代のアメリカとか世界を理解する上でとても勉強になると思う

 

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トランプが有名になったのはテレビのリアリティー・ショー、"The Apprentice"である

これは、トランプからの様々な課題に一般の参加者がapprentice(弟子、見習い)として取り組み、トランプが経営者の立場からそれを評価するというもの。そして、役に立たない人材だと思われると、"You're fired!!"と言われ、退場させられる

僕は数年前にアメリカ人の友達に勧められて観たのだが、「破天荒で物怖じせずに言いたいことをズバッと言う、おもろいおっちゃんだな」と思った。まぁ今の日本のバラエティで言えばマツコみたいといえば伝わるだろうか。体がデカく自信満々、声がデカイ。そのわりに気さく。ムチャクチャだがたまに至極まともなことを言う

おそらく多くのアメリカ人が彼に抱いていた印象もこんなところだと思う。要するに、とにかく知名度と人気は元々あったのだ

 

そして、「なぜあんなムチャクチャな発言ばかり繰り返すトランプがこんなにも支持されているのか?」という疑問がそこかしこで提起されているが、これについては、「アメリカ人が持つ現状に対する不満」に尽きる

 

前回の記事で書いたが、アメリカの最高裁判例を見れば一目瞭然なように、アメリカは徐々にリベラルになってきている

これだけ見ると、「流石自由の国アメリカは違うなー」と言ったところだが、そう単純でもない。例えばObergefell判決(同性婚容認)では、5-4と僅差だった。要するに裁判官が一人変われば結果が違っていたくらいなのである

アメリカは自由の国、移民の国とは言うが、結局は白人社会であり、キリスト教社会である。こうした権利の拡張を面白く思わない人たちは、現代でも当然のようにいる。大統領選の討論会でも、中絶(abortion)の是非は大きな争点となっている(クリントンは容認、トランプは反対)

また、体面上はその社会的立場からポリティカル・コレクトネスを守っていても、内面ではそうしたリベラルな考え方に憎悪を抱えている人はいくらでもいると思う

 

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とりわけ、人種・移民・宗教の問題は根深い。これは僕も実体験としてある。若干ポリコレ的には微妙な記述になるかもしれないが、アメリカのリアルを伝える上で、あえて書きたい

フィラデルフィアアフリカン・アメリカン(AA)の割合が非常に高い。wikiによれば、2010年段階で43.6%に上る。ほぼ半分近い

そして、AAの人の大半は、貧しい。コンビニで働く人、浮浪者、物乞い、汚い格好で地下鉄に乗っている人。普通に暮らしていて目にする彼らの多くはそういう人だ

正直、浮浪者やそうした地下鉄の人は、見ていて気持ちのいいものではない(非難する意図はない)。そしてこれは僕の体感だが、他の人種に比べると感じの悪い人が比較的多い(もちろん気さくで良い人もいるし、僕がアジア人だからというのもあるだろうが、率直な実感である)

また、ヒスパニックもそれなりにいる(2010年段階では12.3%)。どういう人が多いかと言えば、タコス屋の店員とかもあるが、やはり清掃員等である

また、フィラデルフィアはそうでもないが、ムスリムはアメリカに多くいる。そして、近年起きているテロの多くは、ムスリムによる犯行である。もちろん、本来のイスラームは平和を是とするし、テロリストは、極々一部の過激派にすぎない。混同することは絶対に避けなければならない。しかし、これだけ事件が起きていれば、「ムスリム=テロリスト」という「印象」を人々が持ったとしても、それを簡単には非難できないと思う。少なくとも、「連想」をしてしまうのだから

 

もちろんこれは過去の差別の歴史があり、構造的な問題がある。本来ならこれを真正面から認識し、是正しなければならない。差別なく教育や仕事が分配されるようにならなければならない。人種や宗教と個々人を分けなければいけない。しかし、少なくとも「現状」はそうなっているのであり、それはそれで、無視できない

そして、この「現状」をよく思わない人は(とりわけ白人には)、多いのである。何度かそういう話をしたことがある

 

僕が言いたいのは、差別や偏見を助長することではない

こういう「現状」を見て、「AAやヒスパニック、ムスリムを追い払えば『かつてのアメリカ』が戻る」と(腹の底では)短絡的に思っている人がかなりの数に上るということである。それが、Make America Great Againということだろう

 

そして(これは風刺漫画でよくあるが)、AAやヒスパニック(あるいはアジア人)がそのマイノリティの権利を主張することは許されるが、白人がそういうことをするのは絶対に許されない

例えば、僕のタイの友達が"Asians are the best!!"というコメント付きで僕との写真を投稿したことがある。あるいは、AAの友達で、FBに投稿する度、毎回"Black power is strong!!"といった趣旨のことを言う人がいる。あるいは、ペンにはアジア人向けの団体があった

マイノリティは生き残るためには権利を主張しなければならない。だから、こうした言動は許容される

 

しかし、僕も「こういうの見て白人はどう思うんだろう?」としばしば考えていたものだ。"White is the best"なんてことを書いたら大変なバッシングを受けるだろう

要するに、彼らは彼らで、何もしてないのに、悪いことをしているような気になったりしないのかな?ということである。「人種差別主義者」のレッテルを貼られないように、発言や行動に最新の注意を払う必要がある

 

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そして、トランプが訴えているのはこういうことだ。白人層が抱えているこうしたもやもやした思いや鬱憤。それを彼は恐れずに正直に言ってくれる

「誰も勇気がなくて言えないけど言いたいこと」を代弁してくれるのだ

 

もちろん、彼の主張はとんでもない。アメリカは移民で成り立っている国なのに。白人だってヨーロッパからの移民で、インディアンの住んでた場所を奪って作った国なのに

それなのに、多数であることをいいことに、理由もなく差別して、まともな仕事を与えず、挙句、「能力のない、国に益をもたらさない奴は出てけ」である

 

「法律を守らない不法入国者は出てけ」というのはまだわかる。しかし、人種や宗教だけに基づく差別をしているのである。たまったものではない

当事者(AA、ヒスパニック、ムスリムの人たちなど)は今どういう思いで暮らしているか、想像するに余りある

 

僕はかつてLAの全米日系人博物館を訪れたことがある。そこでわかったのは、労働力としてアメリカに送られた日本人が、戦時中に大変な差別を受けていたことである。もちろん戦争という特殊な状況下の話ではある。しかし、自分で呼んどいてあんまりだ。暮らしや仕事はどうなる。今起きているのは、これと同じようなことである

「幸い」、アメリカにいるアジア人は一般に勤勉で優秀というイメージがあるようで、今回もトランプの標的にはなっていない。単純に性格がおとなしくほっといても平気ということもあるだろう。あとは、冗談抜きで、「ご飯が美味しいから」というのも正直かなりあると思う。我々はアメリカに益をもたらしているのだ。でも、いつ標的になるかはわからない

 

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今の世界の潮流は、ポピュリズムだろう。Brexitが顕著だ

アメリカの選挙を見ていて「やはり直接大統領を選べるのはいいなぁ」と思った。直接民主制は、何より一人ひとりが国政に直接関与している実感が得られる。そして、1年半という長期間をかけて、お祭り騒ぎで選び、大々的に大統領就任式をやるのである。これだけやれば、日本みたいにトップがポンポン変わることはない。出る方も投票する方も、責任感が違う

 

しかし、ポピュリズムに流れやすく、選挙がエンタメ化している今の状況を見ていると、議院内閣制にも理があるのかもしれない。Brexitだって、冷静に国の経済や何やらを考えるとEUに残ったほうが絶対良かったという。しかし、国民は離脱を選んだ

もちろん、「経済とかどうでもいい。イギリスが好きだから、独立を選ぶ」というイギリス人の気持ちもわかるし、それを非難はできない。学が無いから〜と非難するのもあれだし、ともかく国民投票という一番民主的なやり方でそうなったのだ

 

これは対岸の火事ではない。日本でも、7月の参院選で野党が負けた時に、自民党が選挙で憲法改正に触れなかったことを受けて、某アナウンサーが、安倍総理に「憲法改正の発議をする前に国民の信を問うべきではないですか」と質問して炎上した

確かに、国会が発議をした後に国民投票があるのだから、そこで信を問えばいいわけである。しかし、このアナウンサーが尋ねたかった趣旨は「しかし、Brexitを見てもわかるように、国民は時に安易なほうに流れてしまう。国民は皆賢いわけではない。政治家がきちんと争点を明確化して説明すべきだ」ということだと思う。もちろんここまでは言えないわけだが

確かに、総理が言ったように「それでは民主主義の否定」かもしれない国民投票の内容を疑うというのは民主主義の真っ向からの否定かもしれない。これは難しい

しかし、僕は国民投票の前にきちんと説明・議論をするべきだと考えており、アナウンサーの意見に賛成だった。というのも、総理こそ国民を「愚」と考えていて、だからこそ議論無くなるべく早く国民投票にこぎつけようとしている、と僕は思うからである

 

そして、トランプが選挙の結果に従うかはわからないと言ったのも(完全に逆だが)そういうことだろう。トランプは逆に、「愚」な国民に媚びているが、それこそ正しいと考えているわけで、「賢」な国民が自分に従わないのは愚かだ、とそういう腹づもりだろう

 

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そして、もう一つの潮流は、「右傾化」だと思う

Brexitもそうだし、日本も、戦後からの脱退を目指して、憲法を改正しようとしている

僕は現行憲法がアメリカに押し付けられたとは考えていないし、どちらかと言うと左寄りだった。が、シン・ゴジラで、日本がアメリカの顔色ばかりを伺っている状況と「戦後は続くよどこまでも」という皮肉を聞いて、そういう考えにも一理あるように思えてきた。日本は日本で、第二次大戦前の「強い日本」を取り戻したいと考えているわけだ

アメリカでも、リベラルになり、イラクから撤退し、テロの被害を受け、国が「弱体化」していると感じる人は多いのだろう。その一方で中国は力を増している。これに対して危機感を持つのもムリもないのかな、と思う

 

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だいぶ話が広がったし長くなったが、最後に討論会(Presidential Debate)について

僕は3回全て見たが、とにかく酷かった

主にトランプだが、2分という時間を守らない、質問に答えない、人の話を遮る、事実を捻じ曲げる、大げさな表現を連発する……。ダメな討論の基本の教科書にしたいくらいだ

 

トランプの話法は単純で、

  • とにかく相手を貶める
  • 単純で同じことを繰り返し、印象を強める(e.g., クリントンが政治家を長年やってたのに何も行動をしなかった。クリントンが大統領になれば税が上がる。オバマケアは最悪)
  • 極端な表現を多用する(e.g., tremendous, disaster, massive, many many...hundreds of people)
  • By the wayと言って話を変え、自分が話したいことを話す

 

確かに、何も自分で勉強せずに彼の話だけを聴いていると、

「嘘つきで何も仕事をしてこなかったクリントンは最悪。トランプが大統領になれば、税金は下がり、経済が周り、不法移民は無くなり、薬物犯罪は無くなり、テロは無くなり、銃で自分の身は守れて、雇用は増え、外交もうまくいき、強いアメリカが戻ってくる」

という「印象」を持つのである

しかし彼はひたすらクリントンを叩くだけで、具体的な方策を何も提示していない。壁を作ることくらいだろう(僕は、これ自体は、不法移民や薬物流入を防ぐ意味で、実効性があると思っているが)

 

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というわけで、長々と語ってしまった。結局、僕が言いたいのは、「トランプが支持されるのはわかるが、当選したらマズイよね」ということだ

仮に当選するとすると、彼はアメリカが日本を防衛してることに対価を払えと言っているので、日本で米軍を撤退させる議論が盛り上がり、右傾化が一気に進むと思う。それが必ずしも悪いことだとは思わないが、ともかく日本と世界が大変なことになるのは間違いないと思う

もう投票が始まっており、あと半日足らずで結果が出ると思う。どうなるか、見ものである