騎士団長殺し。プラハの思い出。資源の入り組んだ仕分け。

 

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先日村上春樹の新作長編『騎士団長殺し』が発売された。

一応僕は村上春樹のファンである。勉強が忙しいので買うか迷ったが,買わないとかえって気になって困るということで結局発売日に買ってしまった。大学の生協に行くと,一応卒業生だからということもあると思うが,盛大な取り扱いを受けていた。

毎晩ちびちび読んでいるのでまだ第1部の半ばくらいである。以下若干ネタバレ感想。

 

【以下ネタバレ】

 

 

 

 

 

タイトルの『騎士団長殺し』は雨田具彦が残した不思議な絵画のタイトルだった。そして,「騎士団長」は大方の予想通り,モーツァルトのオペラ『ドン・ジョバンニ』の騎士団長だった。彼は娘のアンナがドン・ジョバンニに襲われそうになるところを助けようとするも,殺される。しかし,最終シーンで,石像となってドン・ジョバンニを地獄に引きずり込む。

実は僕はこのオペラを観たことがある。あるといっても正式なオペラではなくマリオネット劇(人形劇)だ。チェコプラハを訪れた時,国立劇場で鑑賞した。その時の感想を抜粋する。

 <人形劇(マリオネット)

チェコ伝統芸能、人形劇。ハプスブルク家の支配を受けていた18~19世紀当時は都市部でのドイツ語の使用が強制されており、唯一チェコ語の使用が認められた人形劇を通して人々はチェコ語を守ったそうな。そういう意味でチェコ人にとっては特別な意味合いがある。

 僕は国立マリオネット劇場でかの有名な『ドン・ジョヴァンニ』を観劇。モーツァルトの楽曲をバックに、女ったらしのドン・ジョヴァンニが色々とやらかして、最終的に罰が当って墓に引きずり込まれてしまう、というお話。いやはや僕も気を付けないと。

一応日本語でのパンフレットもあって話の筋は概ねわかるのだが、話の構成も笑いの取り方も非常に古典的であって、娯楽としては正直あまり楽しめなかった。人形捌きは流石の一言で面白いが、長い間見てると飽きる。まぁ伝統芸能というのはおしなべてそういうものなのかもしれない。かと言って芸術性はどうかと言えば、人間が演じているなら細かな仕草や表情が楽しめるが、人形じゃそれもできないからかどうも底が浅く感じられた。曲ももちろん録音なわけだし。皮肉にも血の通った人間の良さというのを思い知らされた格好になった。

 と,残念ながら僕の芸術鑑賞能力が低くてそこまでは楽しめなかったようである。

ドン・ジョバンニが最初に公演されたのもプラハなようで,『騎士団長殺し』でも免色氏がプラハで観劇した旨発言している。そんなわけで,読んでいて感慨深いものがあった。

小説というのは「これは自分のために書かれたものだ」と思わせた時点で勝ちだと思うが,少なくとも僕はそう思わされているので,僕にとっては勝ちな小説である。

 

それにしても,開始して速攻セックスの話が出てきたり,奥さんが突然出ていってしまったり,北海道に旅行に行ったり,ユズという名前の女性が出てきたり,「色彩を持たない」免色という名前の人物が出てきたり,例えで高級娼婦が出てきたり,身近な人が若くして亡くなったり,主人公は相変わらずたくさんの時間があって,女にモテて,と,過去の彼の作品が色々とフラッシュバックする。

ネタ切れなのか,あえてそうしている(重層感を出すためあるいはファンサービス)のかわからないが,読んでいてニヤニヤしてしまう。

相変わらず名言もバンバン生まれている。ひとつは,あまり創造性は無いが高度のプロフェッショナル性を持つ肖像画描きの自分を皮肉っての「絵画界における高級娼婦」ダンス・ダンス・ダンスでもそうだが,彼にとって高級娼婦というのは一つの重要なメタファーらしい。そしてこのプロフェッショナルだけどつまらない仕事を淡々とこなすというのは例の「文化的雪かき」を思い出させるワードである。

それから僕が気に入ったのは「資源の入り組んだ仕分け」である。これは笑うしかない。相変わらずしょうもないクッサイ会話に溢れていて楽しい。

 

雨田具彦が第二次大戦中にウィーンに留学していて,そこでなぜか洋画から日本画に転じているというところが肝のようなのと,このオペラの歴史とかから,どうやら第二次大戦がメインテーマになっていくのかなと予想している。彼は前にはねじまき鳥で満州を扱っている。

僕がヨーロッパを回ったときは,「第二次大戦を理解する」というのを一つのテーマとして,縁のあるところを色々行った。

 

ワルシャワ…ドイツ軍によって破壊されたものの,復興を遂げた旧市街。ワルシャワ蜂起博物館

 

アウシュビッツ・ビルケナウ…言わずもがな

 

ドレスデン…壊滅的被害を受けたものの復興。ドイツのヒロシマと呼ばれる

 

ベルリン…壁や博物館,チェックポイントチャーリー

 

ポツダムポツダム宮殿近くのツェツィーリエンホーフ宮殿でポツダム会談が開かれた

 

アムステルダムアンネ・フランクの家

 

特にアウシュビッツは衝撃的で,それから関連の本を色々と読んだりした。ヒトラーはウィーン生まれなので,その意味でも雨田具彦のウィーン生活の内容がこれから解き明かされていくのだと思う。

そんなわけで,日々の楽しみとしてちびちび読んでいこうと思います。また感想を書きたいと思います。