H30司法試験再現答案ー憲法

第1 規制対象
1 条例72号の規制図書類の範囲は漠然不明確又は過度に広汎であり、憲法31条に反し違憲・違法ではないか。
(1) 規制範囲が漠然不明確であれば国民の予測可能性が担保されないし、あまりに広汎で違憲的に適用される法令はそれ自体が脅威となる。そこで、一般人が基準を読み取れ、かつ合憲的に限定解釈することができない限り、違憲無効となる。
(2)ア 本件で、「殊更に性的感情を刺激する画像又は図画に限る」という限定を付しており、規制対象とそうでないものの基準を読み取ることは可能であるから、漠然不明確とはいえない。
イ そして、たしかに条例7条は刑法上「わいせつ」とならない文書も対象としているほか、漫画・アニメ等も含んでいる。しかし、上記のような限定を付した上で、「衣服の全部又は一部を着けない者」という客観的基準を設け、その上で「卑わいな姿態」としているのだから、羞恥心や不快感を覚えるようなものに限定しているといえる。したがって、このように合憲的に解釈する限り、過度に広汎であるとはいえない。
(3) よって、31条には違反しない。
第2 図書類を購入する側の憲法上の自由
1 青少年
(1) 条例83項は青少年のわいせつな文書等を購入する自由(「本件自由1」という。)を侵害し、憲法211項に反し違憲ではないか。
(2) 思想・情報を発表し伝達するには、適切な情報や思想を知る機会が与えられなければならない。そこで、表現の自由の一環として、情報摂取の自由が同項により保障される。
 もっとも、性表現は価値が劣る言論であり、それを知る権利も憲法上保障されないとの反論が想定される。しかし、国家が表現の価値を判断し、保障の程度に差異を設けることは、表現の自由の基礎にある思想の自由市場原理に反するから認められない。
したがって、本件自由1211項により保障される。
(3) 条例83項は青少年に対する規制図書類の販売・貸与を禁止しており、本件自由1を制約している。なお、これに対して、A市の外に出れば購入できるから制約はないとの反論がありうるが、本件自由1はあくまでA市において購入する自由を問題にしているのだから、制約は肯定できる。
(4)ア 表現の自由は精神的自由の根幹である重要な権利であり、厚く保障される。そして、条例は青少年に対する規制図書類の販売等を一切禁止するものであり、さらに表現内容に着目した規制であるから、制約の態様は強い。
 もっとも、青少年は未熟で傷つきやすく、それを保護する必要性があるから、パターナリスティックな制約も一定程度は許されるべきである(有害図書販売事件)。これをもってあらゆる制約が許されるわけではないが、審査基準は緩められるべきである。
 そこで、規制目的が重要で、手段が目的と実質的関連性を有せば合憲である。
イ 規制目的について、青少年の未熟さやトラウマの残りやすさ等に鑑みれば、青少年の健全な育成は重要といえる。
 手段について、たしかに店舗での入手を不可能にすることで一定の目的は達成しうるが、隣接する市や通信販売等により容易に入手できるのだから、そもそも目的達成に効果的ということができない。
(5) よって、条例8条3項は違憲である。
2 18歳以上
(1) 条例81項及び2項は、18歳以上の者のわいせつな文書等を購入する自由(「本件自由2」という。)を侵害し、憲法211項に反し違憲である。
(2) 前述のように情報摂取の自由は同項により保障され、わいせつな文書であっても変わりないから、本件自由2は同項により保障される。
(3) 条例81項及び2項により、それぞれ日用品等を販売する店舗と規制区域において規制図書類が購入できなくなっており、本件自由2が制約されている。なお、これに対して、4項にいう事業者の店舗等から購入できるから制約が観念し得ないとの反論がありうるが、他店舗で購入ができるからといって制約自体がないということにはならない。
(4)ア 情報摂取の自由は前述のように重要である。
 制約につき、日用品等を販売する店舗での規制図書類の販売数は多くなく、需要もそこまで大きくないこと、そして、規制区域は学校の周辺200メートルで市全体の20%、商業地域の30%と狭い範囲に限られていることから、制約の態様はさほど強くない。
 したがって、規制目的が重要で、手段が目的と実質的関連性を有せば合憲となる。
イ 規制目的につき、1項は購入の意思のない者の目に触れることで羞恥心を与えることを防止することにあり、重要である。2項は青少年の健全な育成を目的としており、その傷つきやすさ、回復の困難さに鑑みれば重要である。
 手段につき、規制は規制図書類の販売を全面的に禁止するものではなく、書店等では従来通り購入することができるのだから、過剰な手段ではなく、目的と実質的関連性を有する。
(5) よって、条例81項及び2項は合憲である。
第2 図書類を販売等する店舗の憲法上の自由
1 スーパーマーケット・コンビニエンスストア
(1) 条例81項はこれらの店舗のわいせつ文書等を販売する自由(「本件自由3」という。)を侵害し、憲法221項に反し違憲ではないか。
(2) 同項は「職業選択の自由」を保障しているが、選択した職業を遂行する自由も保障しなければ同保障は無意味となるから、同項は職業遂行の自由としての営業の自由も保障している。したがって、本件自由3も同項により保障される。
(3) 販売が禁止されており制約がある。
(4) 営業の規制は様々なものがあるから、規制の目的や対象、規制の強度等を考慮して正当化基準を決めるべきである。本件の規制目的は購入意思のない者の目に触れることで羞恥心を与えることを防止することであり、個人の人格権に配慮したもので重要である。対象となる規制図書類を販売しているのは全体の25%にすぎず、さらに売上が全体の売上に占める割合は微々たるものにすぎない。そうすると規制の態様も強くない。
 そこで、規制目的が公共の福祉に合致しないことが明らかであるか、手段が必要性・合理性を欠いていることが明らかでなければ合憲である。そして、本件でこうした事情は見られない。
(5) よって、条例8条1項は本件自由3を侵害するものではなく、合憲である。
2 規制区域の店舗
(1) 条例8条2項は同店舗のわいせつ文書等を販売する自由(「本件自由4という。」)を侵害し、憲法22条1項に反し違憲ではないか。
(2) 前述同様同項により保障され、また、販売が禁止されており制約がある。
(3) 本件の規制目的は児童を含む青少年保護で、重要である。規制区域内の規制図書類販売店舗は150店舗あるところ、売上が全体の売上の20%を超えるのは10店舗にすぎない。そうすると、規制の態様も強くない。
 したがって前述と同一の基準で判断すると、そうした事情はない。
(4) よって合憲である。
3 書店・レンタルビデオ店
(1) 条例8条4項はわいせつ文書等を販売する(「本件自由5」)を侵害し憲法221項に反し違憲ではないか。
(2) 前述同様保障される。制約につき、販売自体はできるが営業活動としての陳列場所を強制されるのだからある。
(3) 本件の規制目的は見たくない者を守ることで重要である。規制についても、内装工事などは必要なものの陳列場所を変えれば済むのだから態様は弱い。
 そこで前述同様の基準で判断すると、そうした事情はない。
(4) よって合憲である。

以上

(2969字) 

 

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もはや今更感がすごすぎて再現答案とも呼べないと思うのですが、憲法だけ書かないのも収まりが悪いのでアップします。

憲法は形式を守ることを最優先課題としていたところ、問題文を開いた瞬間文字通り顔面蒼白になりました。三者間でないなら丁寧に論じたほうがいいと考えて購入側をきっちり書いた結果、時間がなくなり販売側がやっつけになりました(たしか1頁半も書いてないような……)。

しかも、わいせつ文書(要するにエロ本)規制については、アメリカのコンビニなどにはエロ本は売ってないので日本特有だよなぁ、オリンピックどうするんだろうなぁ、欧米は子供の権利に敏感だからなぁ、などと個人的に考えていたので、かえって問題文を素直に読むということが難しく感じました。

あとどこまでを常識として書いていいかもわからず……。そもそも、アマゾンで買えるから規制しても対して困らなくないですか?とか。今どきの子供は自分のスマホを持っててエロ動画を見るからエロ本なんか買わないし、規制したところで意味なくない?とか。というか、多少のエロ本はむしろ青少年の健全な育成に必要なんじゃないの?とか。もちろんそんなこと書けないのですが。

羞恥心を覚えるというのも、まぁ女性からするとそうだと思いますし、僕も普通にコンビニに飲み物買いに行くときに目に入るのは不快ですが、それがどれくらい深刻とすれば常識的なのかもイマイチわからず。身近すぎる話題も困りものです。

 

青少年、大人、3つの販売業態と全て分けて3段階審査を書いたのですが、重複する部分が多いので失敗したなと思ってます。保障と保障の程度、制約と制約の程度もまとめて書くべきでした。中身もスカスカで当てはめでの十分な議論ができず……。

ということで憲法は一番悔いが残るのですが、まぁこればかりは仕方ないです。他の科目でカバーしていることを祈ります。