H30司法試験再現答案―民法

設問1
1 Bの主張
 Bは本件売買契約(民法(以下略す。)555条)に基づき50万円の代金支払請求をする。
 同契約は目的物引渡しの合意と代金支払いの合意により成立するところ、平成29年9月21日において、目的物松茸5キログラムの引渡しの合意と代金50万円支払いの合意がなされているから、成立している。
2 Aの反論
(1) 同時履行の抗弁権
ア Aは、Bが目的物松茸5キロをAに引き渡しておらず、同時履行の抗弁権(533条)により代金支払義務はないと反論する。そこでBが「履行を提供」したといえるか問題となる。
イ 法が不特定物の履行につき特定を要求した趣旨は、債務者に課される無限の調達義務を軽減し債務者を保護する点にあるから、履行対象が確定されている必要がある。そこで,「履行を提供」とは、不特定物の場合、「必要な行為を完了」(401条2項)することで目的物を特定することを要する。
 したがって、債務者の住所で履行を行う取立債務の場合は、①目的物を分離及び準備をして、②債権者に通知することが必要である。
ウ 本件で、Bは松茸を収穫し、乙倉庫に運び入れた上で、5キロ分の箱詰めをしている(①)。さらに、債権者Aに引渡準備が整った旨を電話で連絡し通知している(②)。
 したがって、「必要な行為を完了」しており、「履行を提供」したといえる。
エ よって同時履行の抗弁権に基づき代金支払いを拒むことはできない。
 (2) 危険負担
ア 本件では目的物である松茸5キロが盗難により滅失している。そこで、それと牽連関係にある反対債務である代金50万円の支払債務も消滅したのではないか。
イ 原則として、債務の牽連性から、反対債務も消滅する(債務者主義。536条1項)。もっとも、当事者の公平の観点から、目的物の滅失が債務者の責めに帰することのできない事由による場合は、反対債務は存続する(債権者主義。534条1項)。
ウ そこで、本件で特定され「特定物」となった松茸の盗難が債務者Bの責めに帰することのできない事由によるといえるか。
(ア) 債務者は目的物の保存につき善管注意義務を負う(400条)。もっとも、債権者に受領遅滞(413条)があれば、公平の観点から債務者の注意義務は軽減され、悪意または重過失がある場合にのみ義務違反となると解する。
 Aは受領遅滞に陥っているか。債権は権利であって義務ではなく、受領遅滞は公平の観点から不利益を債権者に負担させる法定責任であると解する。したがって、債権者に原則として受領義務はなく、受領遅滞に陥るのに過失は不要である。
 したがって、本件で21日午後8時の時点でAは受領遅滞に陥っている。
(イ) ではBに松茸の盗難につき悪意又は重過失があるか。悪意はないので重過失につき検討する。
 たしかに、警察から近隣で農作物の盗難が相次いでおり注意喚起すべきとの情報を受け、倉庫をしっかりと施錠すべきだったのに、Bが手足として使用し、その過失につきBが責任を負う履行補助者であるCは、Bの指示を失念し倉庫を普段どおりの簡易な錠のみで施錠しているという過失がある。しかし、盗難の危険が高いであろう深夜は強力な倉庫錠で二重に施錠していること、翌朝も施錠自体はなされていること、二重に施錠されていなかったのはわずか3時間にすぎないことからすると、松茸の保管義務につき一定の注意は果たしており、重過失があるとまではいえない。
 したがって、Bに松茸の盗難につき悪意及び重過失はない。
(ウ)よって、松茸の盗難は債務者Bの責めに帰することのできない事由によるといえる。
3 結論
 以上より、反対債務である代金支払債務は存続するから、BのAに対する上記請求は認められる。

設問2
1 小問(1)
(1) Eの請求は、丙土地所有権に基づく妨害排除請求権としての丙土地明渡請求である(206条、202条1項参照)。
 上記請求が認容されるには、①Eの丙土地所有と②Dの丙土地占有が認められることを要する。①は認められるから、②について、所有権留保売買契約の性質が問題となる。
(2) 所有権留保売買契約とは、売主が目的物の引渡しを終えつつ、代金が完済されるまで目的物の所有権を留保することをいう。その法的構成については、当事者に担保権として留保している意思があるかにより判断する。
(3) 本件で、約定③より甲トラックを担保として支払いを強制するものであることが見て取れ、さらに約定⑤により返却時はトラックを売却しそれをもって債務弁済に充当するとされていることから、実質的に担保権として使われている。したがって、売主である留保所有権者Dは残債務弁済期までは当該動産の交換価値を把握するという担保権を有するにすぎないと解する。
 そして、たしかに、甲トラックにつき盗難届けが出ており、またDもこれを知っている。しかし、あくまで残債務弁済期である平成32年11月9日はまた経過しておらず、Aから売買代金も支払われているのだから、Dは甲トラックにつき担保権を有するにとどまり、占有・使用権限を有しない。
 したがって、②は認められない。
(4) よって、Dの発言は、Eの請求の請求原因であるDの丙土地占有を否定する理由となるものであり、正当である。
2 小問(2)
(1)Dに甲トラックの登録名義があることを理由にDの丙土地占有が認められるか。
(2)ア 道路運送車両法5条1項が、不動産の登記同様(177条)、登録を受けた自動車につき登録を受けなければその所有権の特喪を第三者に対抗できないとした趣旨は、自動車は価値が高く、また取引が通常の動産と比してそこまで頻繁といえないことから、登記類似の公示制度を設け、第三者保護を図ることにある。
 そうすると、「第三者」は177条の第三者と同様に解し、当事者及びその承継人以外の者で、登録の不存在を主張するにつき正当な利益を有する者をいうと解する。
 本件で、Eは甲トラックにより土地を不法占拠されている者であり、取引関係等に入ったわけではないから、「第三者」には当たらない。
イ もっとも、自らあえて登記を保持し、さらにそこから利益を得ているような事情があり、さらに現実の侵害者が見当たらないなどの事情がある場合は、公平の観点及び請求の便宜の観点から、信義則上(1条2項)、登録保持者への請求を認めるべきである。
 本件で、本件契約は所有権留保だから、Dは登録抹消を懈怠していたわけではないが、甲トラックの盗難届が出ていることを知っているにもかかわらず、依然登録を保持し、毎月4万円の代金支払いを受けるという利益を得ている。また、現実の侵害者であるAの所在は不明である。
 したがって、信義則上登録保持者であるDへの請求を認めるべきである。
(3) 以上より、Dの発言は失当であり、Eの請求は認められる。

設問3
1 前提
(1) 定期預金
ア まず、前提として、Cが有していた遺言①の定期預金は遺産分割の対象となるか。
イ 金銭のように遺産分割の調整に資する財産も遺産分割の対象とすべきであること、そして、仮に当然に分割されるとすると口座に新たに入金が行われた際の計算が煩雑となることから、定期預金債権は当然には分割されず、不可分債権として遺産分割の対象となると解する。
ウ したがって、2000万円が積極的相続財産となる。また、Cが有していた300万円の債務が消極的相続財産となる。これも不可分債務として遺産分割の対象となる。
(2) 相続人
 HはCの子であるから相続人となりうるが(887条)、廃除の審判がされており(892条)、遺言でも「廃除の意思を変えるものではない」とされているから、廃除の取消し(894条1項)もない。したがって、Hは相続人から廃除され、F・GのみがCの相続人となる。
2 遺言の解釈
(1)「相続させる」の意義
ア 本件遺言②及び③の「相続させる」の意義が問題となる。
イ 遺言は遺言者の最期の意思表明であるから、遺言者の意思を合理的に解釈すべきである。法定相続人に対して「相続させる」旨の文言がある場合、当該相続人も他の共同相続人とともに当然に当該遺産を相続するのだから、当該遺産を当該相続人に単独で相続させる趣旨と解釈すべきである。
 すなわち、遺贈と解すべき特段の事情がない場合は、遺産分割方法の指定(908条)とすべきである。したがって、相続財産は直ちに当該相続人に帰属する。
(2) 遺言④について
 遺言④は、Hが相続人から廃除されていることから、遺贈と解することができる。したがって、Hは200万円の定期預金を得る。
(3) 遺言②、③及び300万円について
ア 遺言②及び③については遺贈と解すべき特段の事情はないから、遺産分割方法の指定と解し、Cの死亡により、各々に2対1の割合で分割される。消極財産である300万円についても同様である。
 積極財産として、Fは1200万円の定期預金、Gは600万円の定期預金を得る。300万円の債務についてはFが200万円、Gが100万円を負担する。
イ したがって、FはGに対して余分に支払った100万円につき、不当利得(703条)として返還請求をすることができる。
以上

 (3601字)

 

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発表も近いですが、少し前に書いたので投稿します。答案構成に従って書きましたが、他の5科目に比べると当時の記憶はほとんどないので再現率は低いです。

設問1について

同時履行と危険負担という大筋は書けたと思いますが、履行を継続しないと抗弁権を消滅させられないというのは抜けてしまいました。

あと、同時履行の「履行の提供」と不特定物の特定のための「必要な行為を完了」をごっちゃにしてしまいました。

あと、受領遅滞があったときの注意義務の軽減は自己の財産に対するのと同一の注意義務とすべきですが悪意重過失以外としてしまいました。まぁ同じようなものだと思いますが……。

あと答案構成用紙のメモに、「Aが受領しないとBに著しい損害が生じるか」のについての事実が書いてあるのですが、これは受領遅滞に基づいて損害賠償請求ができるかという話なので、本問とは関係ないですよね?おそらく書かなかったかと思うのですが……。

 

本番では結構できたと思った問題なんですけど、色々とボロが出てますね……。

 

設問2小問(1)について

所有権留保は担保権的構成にしました。判例の残債務弁済期についてちゃんと書いたか怪しいですが概ね良いと思います。

所有権留保の法的構成については約定を参考にする必要があると思うのですが、どの程度引用したかは不明です。③と⑤に丸がついていたのでおそらくこれは引用したかと思います。

 

設問2小問(2)について

完全にやらかしました。平成6年判例の射程が及ぶかどうかの問題ですよね。何を思ったか177条の第三者と同視するとかいうトンデモ理論を書いてしまいました…。やはり現場での思いつきは100%死です。

一応信義則でむりやり修正したので結論自体はかろうじて守れたと思います。

 

設問3

答練で何回もやった相続させる旨の遺言が出て笑いました。しかし時間がないので焦ったのか、金銭債務を誤って不可分債務としてしまった……。致命的である。

100万円請求できるという結論について、金銭債務は可分債権なのだから遺産分割の対象にはならないはずで、法定相続分に従い150万円請求できるとするのが正しかったと思います。結論の間違いは痛い……

あと、きちんと三段論法ができた記憶がないのですが、最後の設問で時間もないしまぁこんなものではないでしょうか。

  

民法は苦手でしたが、①条文を解釈するという姿勢を見せる、②結論の妥当性に意識を向ける、ということに気をつけるようにしてから比較的点が伸びるようにはなったと思います。この答案にもそこそこの点数がつくことを期待します。