H30司法試験再現答案―行政法

設問1 小問(1)
1 D及びEに原告適格が認められるためには、「法律上の利益を有する者」(行政事件訴訟法9条1項)でなければならない。
 「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利もしくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう。当該処分を定めた行政法規が不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるに留めず、それが帰属する個々人の個別的利益としても保護する趣旨と解される場合には、このような利益も法律上保護された利益に含む。
 D及びEは処分の名宛人ではないから同条2項に示された事由を勘案する。
2 Dについて
(1) 本件許可処分の根拠法規は法10条1項である。法1条が墓地等の経営を公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障なく行われることを目的としていることから、こうした支障発生を防ぐために墓地経営を市長の許可にかからせていると考えられる。
  そして、条例は法10条の許可の手続等を定めたもので(条例1条)、「法令と目的を共通にする関係法令」であるからこれも参酌すると、条例3条は墓地経営者を原則として地方公共団体とし、例外的にも、宗教法人公益法人等しか認めていない。この制限の趣旨は、営利団体にも経営を認めると競争等により墓地の環境が悪化し、結果として公衆衛生等の支障が生じるからであると考えられる。そうすると、法はDが主張する墓地の経営上の公益性と安定性も保護する趣旨であると解される。
(2) もっとも、B市はこれが個別的利益としては保護されていないと反論する。被侵害利益の内容・性質を検討すると、新たな墓地ができることによる経営悪化、墓地環境の悪化という因果関係は観念的であり、利益の要保護性は高くない。そして、法・条例は経営安定のための距離制限や規模制限など具体的な基準を何ら設けておらず、近くの墓地の経営上の利益が個別的利益として保護されているとまではいえない。
(3) よって、本件土地から300メートル離れたDの墓地の経営上の利益が個別的に保護されているとはいえない。
(4) 以上より、Dは「法律上の利益を有する者」に当たらず、原告適格を有しない。
3 Eについて
(1) 前述のように法は公衆衛生の維持を目的としている。
  そして、墓地は水を汚染するおそれのある死体等を埋葬する墳墓を設ける区域であること(法2条5項)、条例13条2項、14条1項(2)などが飲料水の汚染や雨水の停滞を防止する旨定めていることから、特に飲料水の安全等の周辺住民の生活及び衛生を保護する趣旨と解される。
(2) そしてこれが個別的利益として保護されているかにつき、汚染等のおそれは墓地に近づけば近づくほど上昇する性質を有する。そして、墓地経営許可を受けるには墓地の周囲100メートルの区域の状況の図面提出が義務付けられていること(条例9条2項(4))、飲料水を消費する住宅や障害福祉サービスを行う施設から100メートル以上離れていなければならないとされていることから(条例13条1項)、法は、墓地から100メートル以内の住宅やこれに準じる施設の飲料水等の生活及び衛生の安全を個別的利益として保護していると解される。
(3) 本件で、Eが経営する本件事業所は本件土地から約80メートル離れたところにあり、上記障害福祉サービスを行う施設に該当する。そして、定員に近い利用者が日常的に利用し、数日間連続して入所する利用者もいたから住居に準じる施設といえるから、飲料水の安全等の生活及び衛生の安全を確保する必要がある。したがって、Eの本件事業所の同安全は個別的利益よして保護されている。
(4) 以上より、Eは「法律上の利益を有する者」に当たるから、原告適格を有する。
設問1 小問(2)
1 条例13条1項違反
(1) Eの主張
ア Eは、本件墓地はEの施設から100メートル以上離れておらず本件許可処分は上記規定に反し違法と主張する。
イ まず、本件許可処分は、法10条1項が許可事由につき何ら条件を定めていないこと、条例13条1項ただし書が「認めるとき」という不確定概念を用いていること、及び、墓地の性質や周辺の地形や住環境等の専門的・政策的判断を要する処分であることから、市長に許可をするについての広い要件裁量が認められる。
 そこで、①判断の基礎となる重要な事実に誤認があるか、②考慮不尽・他事考慮等により著しく妥当性を欠く判断がなされた場合には、裁量の逸脱濫用として許可処分は違法となる(行訴法30条)。
ウ 本件で、まず形式的に本件墓地は施設から100メートル以上離れていない。そこでただし書の事由を検討するに、周辺住民が生活環境や衛生環境の悪化を懸念し、反対運動が激しくなっていることから公衆衛生の観点から支障がないとはいえない。
 したがって、これらの事情を考慮しなかった考慮不尽がある。
エ よって裁量の逸脱濫用により違法であると主張する。
(2) B市の反論
ア B市は、本件事業所はDとEが本件墓地の経営許可阻止の目的で意図的に本件墓地から100メートル以内にあるD所有土地に設置したものだから、これを考慮した結果裁量の逸脱濫用はないと反論する。
 これにつき、このような主観的意図を許可処分につき考慮してよいか問題となりうるが、距離制限は墓地が後から設置されたことによる飲料水汚染のおそれを排除すること等に目的があるから、墓地の許可がされだろうことを知りながらあえて制限内に来た者の利益は保護の必要がない。したがって、考慮してよい。
イ そして、たしかに周辺住民の反対運動はあるが、周辺住民は本件土地から100メートルを超える場所に居住するものであり、その生活環境は個別的利益として保護されていないから、特に重視しなくても考慮不尽とはいえない。
ウ よって、適法であると反論をする。
2 条例3条1項違反
(1) Eの主張
ア Eは、本件墓地の実質的な経営者は宗教法人であるAでなく株式会社であるCだから、条例3条各号に該当せず、B市は法の適用を誤っており違法と主張する。
イ 法が経営主体を宗教法人等に限定している趣旨は、墓地経営は市民の宗教感情に適合する必要があり(法1条1項、条例13条1項)公益性を要するから、利益を目的とする株式会社等の経営になじまないことにある。
 そこで、所有権で判断するのではなく、実質的に利益を目的とする主体が経営しているか否かを考慮する。
ウ 本件で、たしかに本件墓地の所有権はAにある。しかし、Cが用地買収や造成工事に必要な費用を全額無利息で融資するという好条件でAに提案を持ちかけており、実質的な経営主体は利益を目的とする株式会社Cである。
エ したがって、上記法令の適用の違反があり、違法である。
(2) B市の反論
ア たしかに、金銭的負担は全てCが行っているが、あくまで経営しているのは宗教法人であるAである。したがって実質的な経営者は「宗教法人」であるから、条例3条に違反するものではない。
イ また、B市は、Eの主張は「自己の法律上の利益に関係のない違法を理由と」する取消しの訴えであり、行訴法10条1項の主張制限にかかると反論する。
 取消訴訟は原告の権利救済を目的とするから、それ以外の違法は主張できないとすることにある。処分の名宛人でない第三者の場合は、原告適格を基礎付ける規定についての違法のみ主張できる。
   Eの原告適格は飲料水の安全にかかる距離制限についての利益に基礎づけられているから、上記主張は主張制限にかかり許されない。
設問2
1 (ア)について
(1) Aの主張
  不許可処分のための条例14条1項の構造設備の要件につき、「認めるとき」という文言を用いていること、設備は墓地の規模や周辺の地形等の専門的判断を要することから、市長の要件裁量が認められる。したがって、前述の①又は②の事由があれば裁量の逸脱濫用で違法となる。 
 本件で、本件墓地の設置にあたっては植栽を行うなど、周辺の生活環境と調和するよう十分な配慮がなされている(条例14条2項)。したがって、「市民の宗教感情に適合」するといえるから、この配慮が十分になされたことを考慮しなかった不許可処分は考慮不尽による裁量の逸脱濫用があり違法である。
(2) B市の反論
 たしかに植栽はなされているが、それは調和の配慮の一つにすぎず、実際には周辺住民の反対運動が激しくなっているのだから、「市民の宗教的感情に適合し」ているとは到底認められない。
 したがって、処分は考慮すべき事項を考慮してされており、裁量の逸脱濫用はなく適法である。
2 (イ)について
(1) Aの主張
 法10条1項に基づく許可処分・不許可処分をするに当たっては、法が保護している利益である国民の宗教感情や公衆衛生等のみを考慮すべきであり、法が個別的に保護していない墓地の経営上の利益を考慮するのは、他事考慮による裁量の逸脱濫用であり違法である。
(2) B市の反論
 前述のように、法は一定の距離にある他の墓地の経営上の利益を個別的には保護していないが、一般的公益としては保護しており、考慮すべきでない事項とはいえない。そして、B市内には複数の墓地があるが、いずれも供給過剰で空き区画が目立ち、本件墓地の経営が始まればDの墓地のような小規模な墓地は経営が破綻する可能性もあるところ、これを保護する必要性が認められる。
 したがって、考慮すべき事項を考慮して行った処分であり、裁量の逸脱濫用はなく適法である。
以上
(3771字)

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墓埋法の原告適格は答練でやったことがあったのでラッキーでした。その時は周辺住民の健康や生活環境が法律上保護されているという話だったので、おそらく経営上の利益は個別的に保護されているとはいえないだろうと考えました。とはいえ2つの利益を別途検討しなければならないので難しい問題だったと思います。

実体違法の問題は行政法では見慣れない主張反論形式で、しかも異なる2つの立場からの主張の検討が必要で難しかったです。

今年は個別法の分量は少なく読み解きは比較的容易でしたが、法律論の組み立てが難しい問題でした。行政法は一応得意科目だと思うので良い評価が得られるといいのですが。